第13話              遠之 えみ作

今、地域の麻雀クラブに入会しようかどうか迷っている。

麻雀は20代の頃、キャバクラで働いていた一時期熱狂したが、基本メチャクチャ下手くそだ。

結婚して生活に振り回されるうち 自然遠のいて何十年も経っているからルールがぼんやりしている。ピンズ、マンズ、ソーズ……中、ハク? ポンとリーチは覚えている。あと何だっけ?

大体、いつもいいカモだったからメンツにはモテモテで引っ張りだこだった。

卓を囲む場所は、私の部屋とか司の部屋、ジュンの家とか持ち回りである。

ジュンは朝早い仕事だったので、ジュンの家で卓を囲む時は休みの前日と決められていた。ジュンの腕前は並みであるが、ヒデはかなりのものだった。深夜キャバクラがはねた後、サパークラブに居ずらくなった私はバイト先をスナックに変えたが、このスナックでギターの弾き語りをしていた30代の男の子がかなりの腕前で、ゲームの最後は大抵ヒデとの一騎討ちになった。私は本当にいいお客様であるが、時折ヒデとギタリストをクズ手と言われる、巧者なら絶対ツマない様な手であがり二人を痺れさせた。(もの凄く悪い意味で) 当然、そのあとの二人の反撃でヒドイ目にあうのだが、とにかく楽しくて煙草の煙が充満した極めて不健康な部屋で徹マンは当たり前だった。

人間変われば変わるもので、私は元々酒は強くて何でも飲んだが煙草だけは体が受け付けなかった。今思い出しても煙が充満しているあの部屋にいて平気だったのは若さ故だろう。

それが、ある時期から全く受け付けなくなっていく。

50代半ばにアレルギーを発症してからだと思う。身体は正直だ。

今ではアルコールほぼほぼダメ、コーヒー、煙草、絶対ダメ。

ま、一生分のリミットを超えたと理解しているが、少々中毒的に飲んでいたコーヒーが飲めなくなった時は流石に人生損した気分になった。

ひと口くらいならいけそうな気もするが、飲んだ後の地獄を思い出すとなかなか超えられない。    超える必要はないか……  へへ……

それでもコーヒーの香りそのものは大好きで 連れ合いが毎朝淹れるコーヒーの香りに癒されている。この先、コーヒーの代わりに飲む様になった緑茶や紅茶にアレルギーの魔の手が伸びてこない事を祈る。


今年は疎遠になっている映画館にも行くつもりだ。できればトイレ付きの安近短バスツアーも参加したい。登録しているエキストラの更新は8月で切れるが そのまま更新せず辞めようと思っている。コロナ前、活発に参加していたエキストラだが、私はガヤと呼ばれるその他大勢が気楽で好きだった。タレントさんが目の前にいるとどうしていいか分からない。監督の指示通りにアクションするだけだが、これが出来ない。

極めてセンスのない私はタレントさんの間近にポジショニングされるのがとても嫌だった。

あるCMの撮影でご一緒させて頂いた役者さんと、全く!100%‼ 思いがけず正面で向き合った事がある。彼は私をスタッフの一人と思ったのか、私と目が合った時微妙に頭を下げたが 驚天した私の顔色に気付くや ゆっくりと顔をそらした。

私は内心かなり焦った。予期せぬ出来事とは云え非常にマズイ。どこからかスタッフが飛んできて羽交い締めされるのでは?と本気で恐れたが何事もなく、その後、すぐに本番スタートとなり無事に終了した。後日放映されたそのCMはとても素敵なワンシーンが流れていて 彼の魅力も全開だった。

私は彼の父親のファンだったので、どこか、亡くなった父親の面影を彷彿させる彼に注目しドラマや映画もよく目を通した。なので、ガヤとは云え、ご一緒できた事がとても嬉しかった。こういう事が私にとってのエキストラ冥利である。

ひどい低賃金も長い拘束時間も一発で解消される。  しかし、この法則はミーハーな私だけのもので、真剣にタレントを目指している人たちにとってはそう甘い話ではない。大半は掛け持ちのバイトをやり繰りしながら時間を作って駆け付けるのだ。

この日の撮影は深夜の1時スタートで終わったのが朝4時半ころ。一睡もせずにこれからバイトに行くと云う若い子たちが何人かいて ミーハーで参加している私は何だかとても申し訳ない気持ちになったものである。

やはりガヤで参加したCMで、業界のある重鎮が撮影の合間にステージ上でこんな事を言っていた。「本気で役者なりタレントを目指すならエキストラはお勧めしない」と。

賛否両論あるだろうが、私は 「その通り」だと思った次第である。

勿論、生活の為にはエキストラもやらなければならない現実もあるだろう事は解った上で。

私に言えるのは体に気をつけて頑張れ! これだけ……


   

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