第12話 遠之 えみ作
今年も又 野球シーズンがやって来る。
大注目だった日本のスーパースターお二人も昨年12月11日、22日に所属先が決まって活躍が期待されている。是非是非‼ケガをせずに、先ず、ご自身が楽しんで、ついでに野球フリークを楽しませて下さい‼
私は64歳の時 ある芸能事務所とエキストラ契約を結んでいる。
当時は出戻った百貨店内の和菓子店で働いていたのだが、年々 体力と視力が減退している事を自覚していた時、ある経済アナリストが 「仕事をやめて時間を持て余してるならシルバーエキストラもおススメ」と云う言葉に乗っかってパソコンを開くと結構な数の事務所が名を連ねていた。中でもシルバーに重点を置いていたのが応募した事務所である。
登録料が10万とは驚いたが、当然 定年はないので長い目で見ればそれもアリと納得しての事だ。
その後、有料の演技指導やら現役の俳優のサークルに入ってレッスンしたりと、とにかく金がかかったが、結構楽しくて熱心に六本木の事務所まで通っていた。
エキストラの仕事もボチボチで、最終的には±ゼロで終わっている。
コロナが本格化する一年くらい前に本業の仕事が忙しくなり、一年間の更新を2度スルーしてもらったが、3度目には除籍を勧められた。但し、戻れる時がきたら登録料なしの条件でいつでもと言って下さった。
そのまま、2023年3月に和菓子店を退職するまで縁が切れたままだった。
私自身、まさか72歳まで現役で働けるとは思わずビックリだが、もっとビックリなのは私と入れ違いに雇われた二人が、どちらも会社から退職を言い渡され、一旦退職した74歳と75歳の元同僚であった事である。
会社としては 新たに新人を育てるよりベテランをシルバー料金(最低賃金)で雇った方がメリット大だったのだろう。 と、云うのも、若い子には敬遠されがちな職種である。接客の難しさばかりではない。とにかく本社からの指示が細かい。
本社の指示は店長を介してスタッフに引き継がれるものばかりではない。
各々パソコンを開き本社からの情報をキャッチして共有するのだが、情報が多岐にわたり送信されてくるので接客しながらの操作はミスも起こる。基本接客ファーストだが、パソコンに集中し過ぎて、時には疎かになったりもする。
とにかく指示が細かかったが、事故を防ぐためには致し方なかったのだろう。
それなのに今では何の事だったかも思い出せない。
3月に退職。4月に義母を見送り、すぐ後の4月下旬に引っ越しと環境が目まぐるしく変わる中、義母の四十九日が終わった後就活に励む。
決して希望通りの職種ではなかったが、雇ってくれた会社には感謝している。と、云うか、パソコンを開けば求人の殆どが介護と清掃で埋め尽くされているから、この業界の人手不足は尋常じゃない程深刻なのだろう。
誰しもキレイで楽な方を選ぶのは仕方のないことだし。
ついでに、と、云う事でエキストラも再開。
しかし、以前の事務所は都心で遠かったので、わりと近めの事務所を探して応募したのだが……
その日は頭がどうかしていたとしか思えない。事務所の説明会当日の事である。
指定された一時間前に着くはずが20分も遅刻してしまった。
先ず、乗り換えの電車を間違える。慌てて戻り なんとか指定駅に着いたが完全に頭が混乱していて、今度は、事務所から教えてもらった出口を出たはずなのに違う方向へ歩き出し完全に迷子状態に。 6月とは云え、とても暑い日だった。
散々ウロウロしながら、片っ端に歩行者を掴まえては目印の病院を尋ねるのだが、皆、言う事がてんでバラバラ……
すっかり困ってしまった私は一度立ち止まり、事務所が指定した駅の出口に戻る。
改めて出口に立ってみると、目の前に事務所が言った病院と生保会社が……私はへたり込みそうになった。確かに最初この出口に立ったはずなのに、のに!何故!違う方向に向かってしまったのか……すごい謎である。
気を取り直して事務所に行くと すでに説明会が始まっていて 私は穴があったら入りたい心境だった。とても小さな事務所だった事にも驚いた。
以前の事務所はかなり規模が大きかったので、ドアを開けた所に10人の応募者がパイプ椅子に座っていたのは少々意外だった。
説明会に20分も遅れた事を詫びながら入っていった私に、説明していた職員は
「あなたの行動は間違いなく私どもの印象を悪くしました。こんな人に仕事を振るのはどうか?と云う印象です」と、かなり手厳しい。当然である。
更に、ボールペンと印鑑も忘れてくるという失態に、事務員はもはやお手上げという顔だ。当然だ。穴がなくても自分で穴を掘って入りたい気分だった。
当然 仕事のオファーはないだろうと最初からアキラメムードだったが、2ヶ月程過ぎたあたりから紹介が入る様に。 しかし、ここで又問題が起きる。
説明会に行った6月は髪の色が白と黒のツートンカラーだったが、10月にはほぼ白髪(はくはつ)に。写真だけ撮り直しに事務所まで行くのは面倒なので 9月にガラケーからスマホに切り替えた事もあり自撮りに挑戦。これが想像を絶するヒドさで、「いつの間にこんなにトシとった?」とオドロキ、アナタ今更何を言い出すの?と自問自答。どこから見ても現実の私に違いない。ああ…無常
12月12日のオファーも私の底なしのドジでエントリーすら出来なかった。
事務所の人も匙を投げたかも……
と、云う訳でまだ一度もエキストラ出来ていない。世の中キビシイのは分かっているつもりだったけど、まだまだまだまだ甘いね、へへ……
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