白い朝陽とエメラルド
白い朝陽の中、身支度を終えたシルは執事長の元へ向かう。
「シル。ご機嫌いかが」
輝く金髪を喪装のかたちに結い上げた少女がシルに呼びかけた。エメラルドグリーンの瞳に疲れを浮かべている。
「おはようございます、ティルフェット様。お気遣い痛み入ります。ティルフェット様はよくお休みになれましたか」
父を亡くした17歳の女性に「よくお休みになれましたか」は不躾だったかもしれない。リュヤージュの妹、ティルフェットは少し哀しい目をして、「ええ」と気弱な笑みを浮かべた。
ティルフェットはリュヤージュの唯一の妹である。カシシーヴ家には二人しか子どもがない。伯爵夫人は自らの命と引き換えにティルフェットを産み、エスフィヴ伯爵はその後、新たな夫人を迎えなかったのだ。
だからこそ、リュヤージュの肩にはずっと、母のいない喪失感と、嫡男としての責任がのしかかっていた。
「シル」
「はい」
「兄を頼みます」
少女のひたむきなグリーンの瞳に見つめられて、シルは狼狽えた。リュヤージュ様は、シルが「友」として彼を支えることを拒絶なさった。あのやりとりをティルフェット様はご存知ないのだ。身分の差はありながらも、まだ二人は友情で結ばれていると思っておられる。それでも。
「はい。どうぞ、お任せくださいませ。ティルフェット様はどうかお心安らかに」
目覚めたときの決意を思い出し、シルは声に力と誇りを込めて応えた。これからは使用人として、生涯リュヤージュ様にお仕えし、お守りするのだ。
「ありがとう、シル」
ティルフェットの表情に明るさが戻った。可憐な容姿、そして毅然と背筋の伸びた美しさを兼ね備えた伯爵令嬢は、許婚との婚礼を控えている。シルは祈った。突然の訃報が、この美しく聡明な令嬢の未来に影を落としませんように。
ティルフェットがとても幼い頃は、リュヤージュとシルと3人で遊んでいいと言われていた。おぼろげな記憶ながら、ティルフェットとシルの間にも確かな友情が流れているのだ。
大嵐の前の、やわらかな光にあふれた朝だった。
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