第28話 次の旅へ ~アグリサイド~

北の洞窟ではいろいろあったけど、とりあえずは役目は果たせたかな。

この後は、どうすればいいんだっけ……

王様への報告をしにいけばいいのかな。


村へ帰る道中は、ひと仕事終えたこともあり、気分も楽になっていた。

ゾルダは相変わらずだし、フォルトナもなんだかんだ言って元気だし。

それに……

全員無事に帰れることは何よりだ。


しかし、ゾルダがブチギレした所為で、結局は魔王たちの目的までは聞き出せなかった。

ブチギレて無くても、あのシエロの賢さじゃ……

まぁ、わかってなかったかな。

思い出しながら、苦笑いする。


分かったのは何かをやるために魔王が動いていること。

それと、先陣でクロウって言う四天王が動いていることかな。

ゾルダは全然そのクロウってやつを知らなかったみたいだけど……


そのことは、道中、フォルトナが寝ているときに、それとなくゾルダに聞いてみた。

でもやっぱり覚えていないらしい。

現魔王のゼドと当時の四天王以外はあまり接点はなかったらしく……


『そんなこと言われても、覚えておらん』


と言われ、一蹴された。

ゾルダの記憶力も本当にいいのか悪いのかよくわからない。

封印されていたって言っていたけど、その影響もあるのかな。

そんなことを考えながら、村へ向かっていた。


しばらくすると、フォルトナが大きな声を出した。


「ほら、アグリ、シルフィーネ村が見えてきたー」

「やっと帰れたねー」

「この村がやっぱり落ち着くなー」


フォルトナは無邪気に笑い、村へと走っていく。

一方、ゾルダも……


「今晩は、いい酒が飲めそうじゃ」

「しばらく飲んでないからのぅ」


やっぱりはやく酒が飲みたいらしい。


「先にアウラさんに報告してからな」


そして、シルフィーネ村へ着くとすぐにアウラさんの屋敷へと向かった。

屋敷の前にはアウラさんとカルムの姿があった。


「アウラさん、ただいま戻りました」


「あら、勇者様」

「さすがお帰りが早いですね」

「首尾よく行きましたか?」

「フォルトナはご迷惑をおかけしていませんでしたか?」


矢継ぎ早に質問がくる。


「えっと、そうですね……」

「北の洞窟にいた魔物は倒すことが出来ました」


アウラは俺の報告に笑顔で応える。


「はい、勇者様であれば当然のこと」

「そこまでは気にしてませんでしたよ」


結構大変だったんだけどな……

まぁ、それだけ信頼してくれている証でもあるんだが……


「風の水晶も無事祠に納めることが出来ました」

「結界が張り始めたので、アウラさんも他のところに納めることが出来たのかなと」


「そうですね……」

「カルムとお友達が手伝ってくれたので、それなりに早く終わりましたね」

「ねぇ、カルム」


「はっ、アウラ様」

「友の協力もあり、無事に祠の修復と風の水晶の設置をすることが出来ました」


カルムさんは何者かよくわからないが、仕事はものすごく出来そうに見える。

いったいどんな人なのだろうか……

そんなことを少し考えていると


「そういえば、さっきの母さんの言葉ー」

「なんでボクが迷惑かけている前提なのさー」

「母さんだって、カルムさんに迷惑かけてるじゃん」


フォルトナが怒って話に割り込んできた。


「あら、フォルトナなら迷惑かけるでしょ?」

「ポジティブなのはいいけど、周りを確認しないことが多いから……」

「急いで出て、敵に捕まったりしてないかしら」


なんかアウラさん、見てきたかのような話。

そこまで分かるなんて、ちょっと薄気味悪い。

でも、そこまでフォルトナのことを分かっているということなのかもしれない。


「そ……っ……そんなことないよ!」

「ボクはそんなことしないよ!」


フォルトナは図星だったので慌てている。


「小娘の言ったとおりのことが起きていたぞ」

「さすが親子じゃのぅ」

「分かっておる」


ゾルダもその話に絡んできた。

いや、その話より他のことを話したいんだから、静かにしておいてほしい。


「まぁ、それはそれとして……」

「北の洞窟に居た魔物はシエロという者でした」

「シエロ曰く、四天王のクロウという者の指示で結界の破壊をしていたとのことでした」

「ただ、その意図までは聞くことが出来ずに……」


話を元に戻して、アウラさんへの報告を始める。


「そうですか……」

「わかりました」

「このことは、私から国王へ伝達しておきます」


ん?

伝達?

俺が報告しに行かなくてもいいのか?


「俺が行かなくてもいいんですか?」


アウラさんに聞き返す。


「はい」

「国王とはやり取りをしておりますので、随時状況は伝えておりました」

「またカルムにお願いして、伝達をしておきますよ」


「ありがとうございます」

「助かります」


「それより……」

「この村からさらに東へ進んだところにある、イハルという都市へ向かってほしいのです」

「そこでは、すでに魔王軍との戦いが始まっているとのことです」

「ギリギリで防いでいる状況で、なんとか撃退してほしい」

「というのが、国王からの伝言です」


はっ?

国王は人使いが荒いなぁ……

休む間もないのか。


「わっ……わかりました」


そういうしかないよね……

ゾルダの方を見ると、また戦えるとあって、ニヤニヤしている。

人の気も知らないで……


「あっ、でも今すぐではなくてもいいですよ」

「しっかりと疲労をとったうえで、向かわないとですね」

「勇者様も力を発揮できないと思いますので」


さすがアウラさん。

分かってらっしゃる。


「ワシも戦えるならすぐにでも行きたいが……」

「そう小娘が言うなら、仕方ないのぅ」

「おぬしも疲れておるから、しっかり休んでいこうぞ」


ゾルダはさきほどのニヤニヤからさらに満面の笑みを浮かべている。

酒が飲みたいだけだろう。


「……そうだな」

「俺も疲れているし、少し休ませてもらってからにしよう」


その言葉を聞くと、ゾルダはガッツポーズをする。

そこまで酒が飲みたかったのか……

まぁ、次の旅に向けて英気を養うことは大事だし。

数日は疲れをとってから、次の旅へと向かおう。


そして一通り報告を終えた俺たちは宿へと向かった。

ゾルダはルンルンだ。

これから久々のお酒だから浴びるほど飲むらしい。

頼むからほどほどにしてくれよ。

二日酔いで出立が遅れるのも問題だからな。

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