第29話 事件、再び

目を醒ました。

眠れない眠れないと思ってるうちに眠ったらしい。

眠気がないまま寝たので中途半端な目覚めになった。


「いやだな」


二度寝しようにも脳がもう起きろと命令している。

身体の痛みも消えて、さっさと動かせと言っている。

わかったわかったと宥めてベッドから降りた。

病室から出て廊下に。

頭が自然と災害が眠る部屋の方に向いていた。

2回も頭を振ってその意識を飛ばし、イロンデルの元に行くことを決めた。



歩いていると何やらざわざわと人の声が聞こえてきた。

嫌な予感がして早足で向かう。

いつもイロンデルが構えている部屋に彼女はいなかった。

時計の方を見ると10時を回ったところ。

少し遅く起きたようだった。

……外の方も変な騒ぎになっている。

少し度が過ぎた歓談、というわけではなさそうだ。

ふと視界の端に私の服が掛けられているのが見えた。

すぐに外して数秒も経たないうちに着替える。


「剣……」


部屋の周りを見渡す。

すぐに私の剣は見つかった。

イロンデルが普段使っている椅子に立て掛けてあった。

隅から隅まで綺麗に拭いてくれていたらしく、私も喜んで腰の帯に装着させてもらった。

これがないと、始まらない。




思っていた以上に人が集まっている。

彼らはみな同じ方向を見ていた。

各々が「有りえない」といった風な様子をしている。

この状況は……あのときと同じか。

人々を軽く押しのけて視線の先にあるものを確認した。


「……また、か」



人が倒れている。

それも一人だけでなく、五人。

彼女たちもまた、特に私と関わりのない名の知らぬ人。

……。

死んでいるのか。




「……ダメですね」

その内の一人の胸に手を押し当てていたイロンデルがつぶやいた。


「心臓の音がない。そこのあなたと、あなた。この人を医院に運び入れるので協力を」


指名された二人は彼女の指示従い、あらかじめイロンデルが持ってきていた担架に遺体を乗せて医院に向かっていった。

遺体がなくなっても周囲の人々のざわめきは消えることはなかった。

遺体がいた箇所を見つめ続けるイロンデルの肩を叩く。


「……っファルコン!? ダメだよまだ寝てなきゃ……」


立ち上がって慌てるように言う。

しかし当のイロンデル自身も休みが取れていないようで、目にくまが出来ていた。


「それを言うならイロンデルも。すごく疲れてる」

「別に……そんなことはないさ」

「私の面倒を夜な夜な見てくれてたから……倒れてしまうよ、イロンデル」「……」


目を背けるイロンデル。

彼女の両肩を掴んで私の言葉を伝える。


「この村の護衛を担う人間として、君を手伝う」

「って……えぇ!?」


イロンデルが驚いて一歩退いた。


「……気持ちは嬉しいけど、こればかりは私1人で解決しないと」

「どうして1人で?」

「……」


数秒の無言。

彼女は唇を噛みしめて地面に目線を移した。


「この村の人たちの体調を見ている医者としての、責任感?」

「それは、あるけど……」

「じゃあたまには半分こしてよ。村の人たちの安全を守るのが私の仕事です。イロンデルと同じ」

「……参ったなあ」


イロンデルは折れて頭を掻く。


「わかったよ、ファルコン。本意ではないが、君に依頼を申し込もう」


手を差し出され、しっかりと握り返した。


「ファルコン、確かに依頼を承りました」

「……こう改まって言うとか、なんというか、恥ずかしいね」


イロンデルは少し照れ臭くなったようで顔を赤らめた。


「私も少し」


一息ついた彼女は、改めて私に依頼の内容を告げた。


「それじゃあ、ファルコン、君に依頼するのは……」

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