第27話 悔恨の夜

自分の病室に戻った。

本当なら泊らずに家に帰るつもりだったけれど。


「今日に関しては絶対に許しません!自分の身体はちゃんと労われ!」


と叱られてしまって、結局一泊することにした。

普段は温厚なイロンデルが怒った顔を見せるなんて。

そんなにも私の身体は酷い状態だったのか。

自分でも気づけないなんて、反省。

更にはイロンデルから即効薬なるものも貰ってしまった。

すぐその場で飲まされたけどかなり苦かった。


「舌をべーっとしない、ちゃんと飲む!」

「あぃ……」


良薬は口に苦し、しかも即効性。

すぐに体調がよくなるのかと思いってベッドの上で寝転がっていたが、特に目立った変化はなかった。

痛みを耐えているせいで眠れない。

その分、色んな事を考えてしまうのだった。



明確な意図を持って人の命を奪おうとした。

羊じゃなく人だ。

それは殺意ではなく、強迫的な義務感からだった。

羊と人は違う。

刺した後に起こったのは羊を屠った時のような虚無感ではなく、やたらと大きな心臓の鼓動が全身を貶めたという事実だった。

あの震えは雨による冷気の発生が原因の寒気でもなく、本能的な恐怖からでもなく。

いや、恐怖と大差ないかもしれないけれど。

あれは身体の内部機構にエラーが生じて勝手にそうなった、というのが正しいかもしれない。

急速な心臓の震えが、そのまま肌にまで反映されてしまっていた。


「……んぁ」


自分のことで深く考えるのはとても嫌だ。

恥ずかしくなって変な声が漏れ出てしまう。

片腕が自然と片目を覆い隠す。

もう片方の眼も半開きになった。

こうしてなんとなく身体を動かすことで意識を逸らそうとする。

しかし数秒経って思考は振り出しに戻された。


「はぁ、ダメ」


なんで殺せなかったんだろ。


「ダメだよ」


先生との訓練の日々が無駄になってしまった。


「そんなこと考えちゃ、ダメだってば」


なんなら、さっき殺しておくべきだったんじゃないのか。制止する彼女を振り切ってでも。


「こんなこと考えるなんて、フーベットが悲しむよ」


私(おまえ)は使命を果たすべきだったんじゃないのか。私(おまえ)は使命を果たすべきだったんじゃないのか。


「……」


「使命ってなに」


「私は何がしたいの?」

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