第21話 護衛、開始

今日の朝は割と目覚めがいい。

早く寝たからだろうか。

何はともあれ、睡眠不足で仕事に支障があることはなくなった。

着替えながら窓の外を見てみる。

まだ薄いが、今日もこれから陽が強くなりそうだ。

距離もあるし、日傘も持っていこう。

剣を取り付けているベルトの反対側の箇所に日傘を取り付ける。


するとちょうど扉を叩く音が出た。


「今出ます」


仕事用の声色を作って扉を開けた。





「おはよう」(コルボー)

「……」

「挨拶は返すのが基本だよ。おはよう」

「うん、おはよう」


意気込んで扉を開けたのが恥ずかしくなった。


「珍しいねえ朝からなんて」


私のこのどこにも行き場がないテンションをどうしてくれるのかな。


「挨拶に来ただけだよ。ちなみに君の行き場のない気持ちの高ぶりに関しては、私は責任を一切負いかねるかな」

「じゃあ責任を負う前に帰ってください」

「ええー」

「ええーじゃないよ」


それでも徹頭徹尾表情を変えず微笑んだままのコルボー


「仕方ない。村の騎士様のお仕事を邪魔するわけにもいかないしね」


やっと背を向けてくれた。

……と、思ったら、少しだけこちらを向いて一言だけ伝えた。


「今日は道中、注意して進むことを推奨するよ」


そして風のようにどこかへ行ってしまった。



気を取り直して。


トントン。



「はい」


今度こそ仕事用の私を作ってドアを開けた。


「———おはようございます」


ドアを開ければすぐにフーベットが眼に入った。


「お待たせしてしまいましたか?」


「いえ。そんなことはありませんよ」


彼女の言葉に呼応して、ファーコではない私は見た目通りの返答をした。


「では、さっそくいきましょうか。最後まで責任を持って、護衛させていただきます」


予想通り陽が出てきたので傘を取り出した。

フーベットを丁重に扱うように傘をそっと上へ翳す。


「あら……別に構いませんのに」

「失礼ながら、夜にしか外出していなかったことを聞きました。慣れない天気の下で長時間歩くというのは、結構疲れてしまうんですよ?」

「じゃあ……そのまま甘えさせてもらいますね」


フーベットは特段拒否する素振りは見せなかった。


「私が普段夜にしか外出しないというのは、きっとイロンデルさんからお聞きしたのですね」

「すみません。護衛する以上はちゃんとその方の情報を知らなくてはならないので」

「……どうして普段夜にしか出ない私が、こんな明るい時間に出歩いているのか。わかりますか?」


突然そんなことを言われた。


「そこまではイロンデルも教えてくれませんでした。どうしてなのですか?」


するとフーベットがどこか詰まらなそうな顔を返してきた。

何かしら自分の想像を言うべきだっただろうか。


「少しくらい、自分で考えてください」


そこでうーん、と唸ってみる。

唸るだけでは特に考えが浮かぶはずがないのだが。

とりあえず色んなものを想起してみる。


「……難しい質問、ですね」

「そんなにですか?」

「人の行動の理由を考えるのは、とても、むずかしい」


そこでフーベットはおかしそうに笑った。


「なんでもいいのに」

「うーん……暇だったから、とか?」

「半分正解ですね」

「もう半分は?」

「考えてみてください」

「……陽の光を浴びたいからとか?」

「それじゃあ今傘を差しているのは間違いになりますね」

「あ……」


一瞬傘を閉じようか迷った。


「もう半分の正解は、」


傘が閉じられるのを遮るように彼女は言葉を続けた。


「自分でもわからない、です」

「……?」


自分から問題を出したのに、その答えが自分でもわかっていないっていうのはどういうことなんだろうと思った。


「暇だったから出歩いているというのもあるんですけど、でも何故か、私にはちゃんとした歩く理由があると思うんです。ただそれがなんなのか、わからない」


理由があるはずなのにそれがわからないまま進んでいる。


「その答えを見つけたいからこうして歩いている……なんだか旅人みたいですね」


そんな心持の人もいるにはいる。

ゆらゆらといった災害に出くわさない限り変化のない花園で、そんなことを思うのは何ら不思議ではなかった。

でもそれを実行に移せる人はなかなかいない。


「いいことだと思いますよ」


素直な感想を口にした。


「自分の意味を探すのはいいことです」


私自身にも落とし込むようにその言葉を紡いだ。

でもほんのすこし自分の中で引っかかりができた気がしたけど、あまり気にしなかった。

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