第19話 一人の夜

その日の夜、イロンデルは来なかった。

医院に運んだ遺体を調べるのに手間取っているのだろうか。

私がこの村に来てから消えた人は多分今日で一人目なのではないだろうか。

それ以外で人が消えるようなことは決してなかったはずだ。

1人でぼんやりとそんなことを考えながら、今夜も紅茶に口をつける。

……そういえば、コルボーも来ない。

珍しい。

たまに来ないときもあるけど、それでも毎晩は絶対にやってくるような奴だ。

私が家に戻る時間が遅かったときは諦めて退散していることもあるが、まだそんな時間帯でもない。

1人で紅茶を啜る夜なんて稀だ。

それにしても今日は本当に奇妙な1日だった。

誰かが消えて、イロンデルが慌てて、コルボーが来ない。

普段通りの日常でないというだけで、今日という1日は忘れられない記憶に置換されていく。

そんな特異な出来事の中でも特に、頭の中でフーベットの放った言葉がぐるぐると旋回していた。

誰かが亡くなったのを当たり前のことだと彼女は言った。

どうしてそんなこと言えるんだろう。

昨日イロンデルから聞いたことや少し話したということだけでフーベットを分かったつもりでいたけれど、そんなことはなかったらしい。

私はまだ、理由なく気になっているフーベットのことを全然知らない。

フーベットを知らないということを、今日知った。

多分明日も、忘れられない1日になるだろうと思った。

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