ポウレット・ニッド

第4話 鷹の名の少女

ざっざっざっざ。

足音を鳴らしながら草木の道を進んでいく。

ざっざっざっざ。

わざとらしく、大きな音を鳴らす。

獰猛な獣が近くにいるのなら、こうして先に音を出しておくことで払うことができるらしい。

まあ、そんな危険なものがもしあれば、の話だけど。


「ファルコンさん、そんなに強く踏み鳴らしながら歩いて、疲れない?」


後ろからついてくる依頼主が問いかける。


「旅の安全のためです」


それだけ答えると、彼女は呆れているという意思表示なのか、やけに大きい溜息を吐いた。


「……」


そんな、「何を言っているんだお前は。やれやれ」というような心情を露わにするのはやめてほしい。

悲しくなってしまう。


「折り返しのところまで来ました。少し休憩にしますか?」


決してそんな感情は表には出さない。

あくまで自分は護衛をするだけの仕事。

そこに私情を持ち込んではいけない。


「いや?疲れてはいないし、ファルコンさんも全然歩けるでしょ。このまま行きましょう」


そうして私たち二人はまた歩き出す。

今日護衛しているのは、村の商人のうちの一人だ。

なんでも珍しい現世ごみを仕入れたからそれを売り捌きに行くんだとか。

護衛するのは大抵、こういった商人ばかりだった。

あとはたまに遠くの知り合いに会いに行くという人、とか。

それ以外の人は村の外に出ようとは考えない。

何せ、この「花園」の道の視角に入らない空間は常に変容しているからだ。

今目の前にある、真っすぐな線の道。

それは私たちという観測者が見ているから変容が止まり、固定された空間になっているのだ。

だが後ろにあったはずの道はどうかわからない。

きっと振り返ってみれば、うねりくねった蛇のようになっているかもしれない。

いや、もしくは、珍しいことに全く同じ道かもしれない。

だが振り返ってそれを確かめよう、なんてことをすれば命取りだ。

後ろを振り向けば前方の道はたちまち変容してしまう。

そうなったらまた、目的地までのルートをまた思案しないといけなくなる。

だからたまたま真っすぐな形をしてくれているこの道を決して見落とさないように。

この道に従って歩いていくしかないんだ。


ふと、彼女からこんなことを聞かれた。


「どうして護衛の仕事をするの?」


いつも同じようなことを聞かれる。


「花園には、私たちを襲うようなものはないのに」


それは、そうなんだけれど。


「一体なにから、私たちを守ろうとしているの?」


そんなことを聞かれるたび、事前に用意してあるありきたりな回答を苦し紛れに出すのだった。


「もしものことがあるかもしれません。私たちがまだ見たことのない脅威が、あるかもしれない。「ゆらゆら」も、いきなり現れるかもしれない」


彼女たちは、私がそう言う度に、訝し気な目線を送ってくる。


「だから、私がいる」


そして彼女たちは、私の腰の横に指を差す。


「そんな物騒なものを持ち歩いて」


手が腰の帯に括られている凶器の柄に触れる。


「危険なのは、あなたの方じゃないの?」

「……」


だって、これがないと、私は。

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