第22話 後編の前に……SSDメンバーから応援メッセージ

 それは、紗代が新聞を見ながら素っ頓狂な声を上げたことに始まる。


「な、な、何よコレ。能登半島付近を震源に大地震で被害甚大ですって!?」


 因みにその新聞、日付が何故か2024年1月2日となっているのだ。紗代がテーブルに何気に置かれていた新聞を手に取って、一面の大惨事の写真に加え、ここ最近こんな大事件の類には身に覚えがないため、急遽日付を確認したら、何と2024年だったのである。現在彼女が生きている時代は昭和31年(1956年)なので、70年近く後の出来事だ。




 紗代の素っ頓狂な声に、メンバーも当然駆け付けて来た。


「ど、どうしたんですか!?紗代さん」


「見てよコレ。多分未来の話だと思うんだけど、こんな悲惨な光景はここ最近見たことないわ」


 そう言って紗代が見開いた新聞記事に、誰もが息を呑んだ。


「な、何よコレ……」


「ま、まるで空襲の跡みたいだわ……」


「また戦争でも始まったのかよと錯覚しちまうじゃねえか」


「雪代、不謹慎なこと言わないでよ」


 そう、時は昭和31年。メンバーはいずれも戦前から戦中に掛けての生まれであり、戦争を肌で体験し、確かに街に嘗ての戦争の傷跡は見られなくなったが、戦後まだ10年余りで戦争の記憶もまだ生々しかった時代であり、メンバーは例外なく戦争の傷を背負っていた。


 それ故、新聞の写真だけでも被災者の痛々しい様子が、まるで自分のことのように伝わってくる。特に紗代、翔馬は原爆、英梨花は東京大空襲を経験した身なので猶更であった。




 戦争からまだ10年余しか経っていないのである。あの頃の記憶が蘇り、慄然とし、金縛りに遭ったように身動きできず、どうしていいか分からなかった。無理もない。戦争を乗り越えて来た世代といっても、当人たちはその頃はまだ幼少期であり、比較的裕福な環境だったとはいえ、食べるものに不自由したとか、闇市に行って家の色々な物と食べ物を交換したとか、子供心にも色々大変だった記憶しかない。


 だが、それは、当時子供だったメンバーにとっては、ただ時間が過ぎれば次第にマシになっていくだけのことでしかなかった。なので食っていくため、戦争を生き延びた働き盛りの大人は瓦礫の後始末や食料調達など、想像を絶する思いで必死に生きて来たことは理解していたが、実感は薄い。


 第一、あの時幼少の砌に出来ることなどなかったし、その意味では仕方ないだろう。




 そんな彼女たちでさえ、嘗ての記憶を思い出し、痛々しい感覚を覚える程に写真は衝撃的だったのである。無論、彼女たちも過去に何度も大災害があり、瓦礫の山の様子は知っているが、殆どが明治大正時代のことなので、遠い過去でしかなく、イマイチピンと来ないのに、何故かこの写真は未来の出来事の筈なのに、自分たちに生々しく迫り、過去の戦争の記憶を抉る。


 


 誰もが写真の惨状と自分の戦争の傷を重ね合わせていた中、仁八が入って来た。


「おやおや、どうしたのかね?そんなに深刻な表情で固まって」


「ああ、見てくれよ、この写真。どうも未来らしいんだが、まるで他人事とは思えなくてよお」


 新聞の写真の惨状を目にしても、仁八は意外な程冷静であった。まるで無神経と思えるかのように。だが、仁八は静かに言い放った。


「これはヒドイな。だが、未来の話である以上、我々から助けられることは何もない。だが、我々産業人に、立ち止まっている暇はないんだ。もしも未来のその人たちのことを真に思うなら、これまで通りに当たり前に仕事をこなし、そして日常を送ることだ。休みの日は町に繰り出して遊ぶのも構わない。こんな時、被災者を慮って萎縮しても、それは反って被災者を苦しめるだけだ。普通の日常を送ることこそが、被災者にとって最大の復興源となる。第一、お前たちには、もっと出来ることがあるだろう。それを考えるんだ。ひたすら前に進むことだけを考えろ。それが、お前たちの使命だ」


 そう言って立ち去る仁八。嘗て、原爆で両親を失い、それからの想像を絶する混乱を死に物狂いで生き抜いてきた人だけに、穏やかな口調ながらも一言一句に説得力があり、鬼気迫るものがあった。




 残された5人は、必死で考え、ある結論に達した。


「そうだ、私たちがすべきことは、レースで勝って勝って勝ちまくることじゃないかしら。それに、恐らくもうすぐ国内から世界へと飛び出すとか噂になってたし、今度は世界を舞台に、私たちが活躍することが、被災者にとっても励みになると思う。未来にメッセージとして伝わる筈よ」


「そうね。社長の言う通り、私たちに立ち止まっている暇はないわ」


 そして、メンバーは決意を新たにするのだった。その様子を仁八は影からひっそりと見ていた。頷きながら、静かに独白する。


「そうだ、それでいい。これから先、我が社も、そしてSSDも世界進出に向けて、忙しくなるな。世界を相手にするとなると、国内すら児戯に思える程にな。こちらも覚悟が決まったよ」




 そして、SSDメンバーから、未来に向けて、今回の地震の被災者に、応援メッセージ。




『被災者の皆様、この度は、元日早々の災禍に対して、我々も悲しみに堪えません。そして、全国の皆様へ。今回の地震に誰もが心を痛めているでしょう。でも、それで被災者を慮って節約するとか、絶対してはいけません。それでモノが回らなくなったら、それは復興の遅れにも繋がり、余計に被災者を苦しめることになります。被災者を思うなら、無事な方はこれまでと変わらぬ生活を送り、時に遊んで世の中を回してください。我々の変わらぬ日常こそが、被災者を救うのです。もしも被災地の産品を見たら、それを買うのもありです。以上、SSDからのメッセージでした』


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