第10話 印象

最近、大きいレースに出るためのトライアルレースで勝った馬がいる。去年いた馬なので記憶に残っている。顔に特徴のある馬ではなかったが、よく見ると額にあの有名な魔法使いのようなマークがある。つむじのせいなのか、毛並みがそのように見えるのだ。あとは水やりが大変だったのと、となりの馬が人参を食べる馬だったので、馬房の場所も明確だ。馬は生まれ持って人参を食べるわけではない。生産牧場で人参を与えていると食べるが、あまり多くはない。休養馬などは、厩舎で食べさせてもらってるせいか食いつきがよい。


大きいレースに勝ってる馬は何頭かいるが、印象が薄い馬が多い。名前は覚えていても、顔が出てこない。調教をしている人達は覚えているのだろうが、馬も、お父さんお母さんのように仕事してるときの顔と家にいるときの顔が違うようで、乗ってる人とそうでない人と馬の印象は変わるとおもう。

記憶に残っている馬はいる。彼は黄色い無口をしていたのだ。彼しかその色はいなかったので覚えている。特に水やりがうるさいわけでもなく、まぁ相手にされてなかった感じかな…あと、1頭だけは強烈に印象が残っている。飼い葉桶を乗せる台が馬房の中に付いていて、そこを玄関を掃く箒で掃除していくのだが、その箒に必ず食い付いて来るやつがいた。飼い葉台には馬房の外から餌をつけれるように小窓がついていて、そこから台の上に散らかった寝藁など履いていくために庭箒を使っている。最初はウザかったが、だんだんおもしろくなってきて、毎日綱引きのように引っ張りあって遊んでた。彼は現役時代はクセのある馬と言われていたが、ここではそんなことなかったらしい。ただ聞いた話によると、馴致の時乗ってる人がムチを入れた途端(何が原因か知らないが)ロンギ場というところで(円形になっていて馬を乗り始めで使ったりする小さい馬場)壁に向かって、かぶって(ロデオのように身体を丸めて人を落とそうとする行為)すっ飛んでっ行ったらしい。やつは今、種馬生活を終えゆっくり余生を過ごしているらしい。なかなか人気があるようで、この間新聞に載っていた。

そのうち、会いに行こうかな~。


毎年、9月になると1歳馬が続々と入ってくる。大体、今いる、いた馬たちの弟妹たちが入って来ることが多い。名前を聞いて、代々その兄妹は性格が悪いとか、クセが強いとかある。きっと、母親の性格を継いでるだろうと予測する。父親は違うわけだから…たまに、この子の親の顔が見てみたいと思うことがある。でも、長い事牧場で働いているとその母親を知ってる、世話したということもあり、愛着が湧く。人懐っこい馬に限るが…たまに、突然変異のように、違う性格の弟、妹が来ると、とても記憶に残る。今年はどんなのが入ってくるのかな…

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