第6話 寝藁ちゃん

彼女はここに来た時、ひたすらオドオドし、鳴いていた。やはり初めて来た場所だ。落ち着かないのが普通だ。そのせいなのか、馬房の中の1部分の寝藁が薄くなっているところがある。前掻きして薄くしてると思われる。寝藁が少ないのかと思って薄くなってるところに新しい麦稈を足しても、結局同じところが薄くなってる。馬房の入り口の寝藁が無くなってることは珍しくないが、中途半端なところなので、気になる。だから彼女を寝藁ちゃんとする。

昨日、彼女のか馴致が始まった。洗い場に入らない。芦毛ちゃんと違うのは、強引なことはしていないが、人力で無理やり押し込んでいた。馬のお尻の下あたりに、馬の左右にいる人が手を繋いで、お尻を包み込むようにして押す人、両脇を押す人、馬を引っ張る人、前脚を持ち前に一歩出そうとする人、5、6人馬をかこんで洗い場に押し込もうとしてるが、動かない。けど、ここでやめるわけにはいかない。そのまま洗い場に入れないと、嫌な思いをさせるだけで終わり、ゼロ、あるいはマイナスからやり直さないといけない。そして馬は洗い場に入った。

1歳馬なので、力がまだないからできる事だ。洗い場に入ってからはおとなしく、足を洗っていた。そして今日、洗い場に入らない。人数もいない。お尻の部分に手をかけて、押し込もうとするが、今日は蹴飛ばしてくる。そこで竹箒。後ろから箒であおる、時々さきっぽでお尻をツンツンする。それでも入らない。後退りして逃げようとする。そしてあの釣り竿のようなムチが登場する。とりあえず、後ろで音だけで脅す。地面を叩くと音がする。馬には当てない、そして後退りすると音を立て脅す。前に進むしかないように、追い込む。そんなこんなで洗い場に入った。競馬を見た事がある人はゲートに入らない馬をも見た事があるだろう。それと同じ事だ。洗い場か、ゲートかの違い。馬房に戻り飼葉をもりもり食べているところを見ると、精神的にダメージはないらしい。


年が明けた。彼女は旅立った。新しい牧場で頑張れ!


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