第7話さよなら カミツキ―
今日、競走馬を引退した馬が乗馬クラブに行った。彼は、数年前から休養で行ったり来たりしていた。
出ていくときは喜び、帰って来た時は憂鬱になったりしたものだ。なぜなら、奴は噛みついてくるのだ。彼の馬房には、ません棒がなくいきなりドアなのだ。ません棒を噛みながら息を吸い込む癖があり、腹痛の原因になりかねないので無くしている。水やりの時、ません棒がある場合は 棒と棒の間から手を入れることができるが、無いので嫌でも馬房の中に入らないとならない。しかもバケツに草を入れて汚す常習犯なので、必ずバケツをはずしてきれいにしなければならない。そのバケツをはずす時、水を入れる時、油断してると噛みついてくるのだ。奴は常に狙っている。涼しげな顔で、何もしませんよって振りをもして隙を見て噛んでくる。噛んだあとは自分が叩かれないように、俊敏に馬房の奥に逃げる。奴にとっては遊びだ。本気なら耳を倒し、身体を硬直させて噛みついてくる。が、彼はそんなんじゃない。頭を下げてるから、甘えてるのかと思ったら、足を噛んでくる。足 を噛まれないように足踏みしながら、ホースで水をやってると、別のところを噛んでくる。噛んでこないときは、餌を食べてる時だ。
こんなこともある。奴はドアにお尻を向けて立ってる時がある。向けてるだけならドアを開けて追っ払うことができるが、お尻を網網のでドアに押し込むように立っているので、ドアが尻圧で開かない。網の間からボンレスハムのように肉がちょっとだけはみ出してる状態。無理やり開けると、お尻が馬房からはみ出ているが、奴は動かない。入口を塞いでいる。ちょっとの隙間からホースを持った手を馬房の中にそっと入れ、バケツに水を足してそっと仕事を終える。そして無理やりドアを閉める。
元気でね。みんなに可愛がられることを祈ってるよ!
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