第49話 立場あれば思うところ有り
「――なるほどな」
酒宴に加わった隊長さんと、その上官である、リダストーン衛兵隊で一番偉いお方に、私は今回の宣言とみなさんへのお願いについて諸々を話した。
お二方の立場的には、微妙な話なのではないか、とは思う。
実のところ、住民に何か強いているわけではないし、そもそもみなさんへのお願いだって、結局は自由意思に委ねている。
ただ、アレは脅しと受け取られても仕方のないものだった、とは思う。衛兵隊のお二方がどのように判断するか――
何かしら非難の言葉を受けても仕方ない。そう覚悟を決めた上で、私なりの誠意を以ってお話しさせていただいたのだけど……
渋面のお二人は、私からのお話の後、スッと自然な所作でジョッキに手を伸ばした。お互いに無言で視線を向け合い、きっと揃えた訳でもないのに、揃った動きでお酒を
早くも一杯片付き、私が次を
「君から先に言ったらどうかね」
「業務命令ですか?」
「年功序列だよ」
淡々としたお返事に、隊長さんは軽く鼻を鳴らしてから、二敗目を軽く口に含んでいった。
「我々としては……まあ、悪い話じゃない。もっとも、これまでだってずっとそうだったわけだが……」
横に座っておられる上席者を軽く
「我々衛兵隊にとって重要なのは……手配書公布という重要事から、我々が省かれたこと。罪状不明の人物に対して手配書が公布されたこと。つまるところ……身内の我々にとってでさえ、本件の意思決定のプロセスが不明瞭だということだ」
息詰まる沈黙の中、隊長さんは残りをゴクゴクと飲み干していき――
軽くため息をついた後、口を開いた。
「何かしらの不正が行われたのではないかと、そういう懸念はある……個人的な考えですがね」
やや皮肉っぽい調子で付け足した言葉と、投げかけられた視線に、上官殿が少し強く瞑目なさった。次のお言葉を待つ静寂の中、ゆっくりと目を開けられ――
「開示させるべきとは、前から考えていた」と仰った。
それから、ご当人に言わせれは「懺悔」のお言葉が続く。
まず、手配書公布に関し、本来あるべきプロセスを経なかったことについて。その事実が何かしらの圧力の存在をうかがわせる。
となると、衛兵隊としては軽はずみには動けない。
というのも、よそからのヘッドハントで、べテランまで取り立てられていたという状況にあるから。
こんな現況で、得体の知れない「張本人」に楯突けば、自分のキャリアどころか衛兵隊全体の仕事に差し支える恐れがある。
「現職の司令官が更迭されたとなれば……君らが捕ってきてくれた連中が、良い気になって動き出しかねなかったものでね」
それから、「もっとも、こんなのは保身の言い訳でしかないが……」とつぶやかれ、軽く酒を煽られた。
でも、ご自身を責められるようなことではないと思う。個人の進退がもっと広くに伝播するなんて、責任ある立場の方々には当たり前だから。
ただ、ご当人としては覚悟を決めておいでだった。
「君に触発されたというと恥ずかしい限りだが、私も動こうとは思う」
実際、心情的なものだけでなく、もっと合理的な心算もあってのご決断だった。
「仮に、本当に外部の上役がいたとすれば、我々が知る上層部とて、実質的には御用聞きでしかない。本件がこうまで
「そこを突くってことスか?」
「ああ。黒幕の影響力や圧力を排する、なんらかの策は必要だろうが……街の現状を見るに、少なくとも我々が知る『現地』側は、妥協案に乗るのではないかな」
もちろん、これは希望的観測でしかないのだけど……
それでも、私には確かな前進のように感じられた。
そうした、行政や教会との交渉に、近々乗り出すお考えとのこと。
さらには、その席に私の同行をご提案いただいた。重要な
ご自身の役目を果たされようという考えには敬意を、だけど、少し差し出がましいと思いながらも、私は口を開いた。
「ご存じのことと思いますが、今日も街の皆様方に、ひとつ宣言を致しました。まずは数日、様子をご覧になった上で、改めて交渉の席に臨まれては」
「ふむ……いや、しかし……君には悪いが、あれだけの宣言をしても、大した変化は望めないと思うが……」
とは仰せになったのだけど、そこで言葉を切られた後、司令官殿は考え込まれた。
「いや……誰も、何も起こせないでいるなら……?」
きっと、こちらのお方も、私が考えていることにたどり着かれたのだと思う。
仕事仲間の皆さんが、疑問を
「おかわりはいかがでしょうか?」
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