第45話 「終わり」が少しずつ見えてきて
なんだかんだ、リダストーンに厄介になって、結構な日が経った。
街を一人で出歩いて、石を投げつけられることは、それに適した場所へ行かない限りはあり得ないぐらいになっている。
それどころか、周囲に他の通行人がいないときに、私に向けて会釈されることも何回かあった。
きっと、私たちが捕らえてきた賊から、直接的な被害を受けた方なのだと思う。
今日も私は、本来は負われる立場ながら、追う立場の人たちの動きを探って街を巡っていた。
そんな堂々と街を歩く逆パトロールを終え、夕方。私はシャロンさんのお店への帰途についた。
いつごろからか、この店への出入りも堂々とやるようになっていた。
というのも、私のお仕事のお礼にと、何回か知らない方が訪れるようなことがあったから。
「もうバレバレじゃんね」と、お得意の皆さんと笑い合って、シャロンさんも「まーいいか」となったのだった。
開店前の酒場に入ると、「おつかれ」とシャロンさんがいつものように声をかけてくださった。いえ、いつもよりも少し上機嫌というか……
気のせいかもしれない微妙な違和感は、実際、本物だったのかもしれない。
夕食の席で出されたお料理は、いつもよりも奮発した感じだったから。「どうぞ召し上がれ」と言われても、逆に戸惑ってしまう。
「何かあったんですか?」と問いかけると……
ちょっと間があって、一応は応えていただけた。
「いやさ、いい酒が入って。順番待ちぐらいの、超上等な奴」
どうも、客にお出しする品ではなくて、おひとりで楽しむためのものらしく、「あげないからね」とイイ笑みで釘を刺されてしまった。
「まだ何も言ってませんけど……」
「どうだか」
実のところ、この店の
だから、超上等なお酒というのは、やっぱりちょっと気になる。
とはいえ、その逸品のおかげで、こうして家勢なお料理が振る舞われたのなら、ご相伴みたいなものだった。むしろ、シャロンさんの気前の良さに感謝すべきとも思う。
念のために聞いてみるも、宿代食事代はいつも通りでいいという話だし。
他のお客さんがいない、ちょっと早めの夕食。見た目以上に手間暇かかってそうなお料理に感激し、次を求める手が自然と伸びていく。
そんな私を対面で優しく見つめるシャロンさんが、不意に視線を外した。
「あとひとつになっちゃったねえ」
その視線の先にある物を見れば、何の話かは明白だった。
街のそこかしこから集まる、様々な依頼を貼り付けた掲示板。その一角にある、お尋ね者たちのエリア。
近隣を騒がしていた賊たちは、残すところあと1集団となっていた。
この店に集まる、私たちのグループで片付けたものもあれば、他の店を拠点とする方々が仕事したケースもある。
中には、衛兵隊の調査で「自然消滅」が確認されたものも。
「
実際、私の働きは大きいと思う。そこは自負があって、達成感もある。
でも、概ね片付いた掲示板は、私にとっては――
「あとひとつ」ではなかった。
口の中をお水で片付けてから、「ふたつですよ」と訂正を入れる。
「ふたつ? まだあったっけ?」
「……目の前にいるじゃないですか」
そういうと、シャロンさんは目を白黒させた後に、「あんたは数に入れてないって!」と笑った。
でも、私としては冗談でも何でもなくて。
賊を片付けていく日々も、私にとっては、結局は過程でしかない。
この街の手配書が「最後の一枚」になった時、どうなるか。
あるいは、どうするか――
その日その時のことを思うも、この場には似合わないと考え直し、私は気持ちと話題を切り替えることにした。
「シャロンさんの言う、最後の連中を片付けたら、記念に何かあります?」
「前祝いで良くない?」
今日のお料理に視線を落とし、そっけない感じで仰るシャロンさん。
そ、それを言われると弱いけど……私なりに、ちょっと思うところはある。
「私ひとり、いい目に遭うというのも……」
「いいじゃない。一番頑張ってるんだし」
と、特に何かお祝いをしようというお考えはなさそうで。
でも、最後のお仕事が片付いたら、その後の宴席の空気それ自体が一番の報酬になるかな……
ああ、いえ。
「……どうしたの?何かあった?」
気づけば険しい顔で考え込んでしまっていた私は、シャロンさんに問いかけられて、取り繕うように苦笑いを返した。
「いえ、最後のお仕事の後、むしろ私の方から何か言わなきゃいけないのかなって」
本当の考え事とは微妙にニュアンスの違う言い訳を返すと、シャロンさんには鼻で笑われた。
「おつかれさまですつって酒
そうかなあ……
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