第36話 渦中への帰還
当たり前ではあるのだけど、縛り上げられた盗賊たちは、頭数だけではもうどうしようもなくて。私たちは特に面倒なことなく、朝日を迎えることができた。
面倒が起こるとすれば、帰り道、街へ近づくところから……だと思う。
早朝の清々しい空気の中、帰還に向けて準備していく。
盗賊たちは、互いの足に縄を
一応、私が飛び道具のデモンストレーションをしてやると、ほとんどの賊は大人しくなった。親玉を筆頭に、それでも反抗心を見せてくる奴はいる。
だけど、互いに足を結び付けられている今、自分だけでも――というわけにはいかない。
布などで口も塞がれていて、いまの彼らにできることといったら、恨みがましい視線を投げつつ鼻息を荒くすることぐらいだった。
この戦利品を引き連れ、私たちはリダストーンに向けて歩き出した。
街道に入って少しすると、すれ違う方がいらっしゃって……装いからすると行商の方かな? 一行を引き連れる私の装いと、後に続く強面の行列に、ギョッとして目を白黒なさった。
ただ、驚きの後には、すぐに好奇心がやってきたみたい。すれ違うはずが、少しの間、道を同じくすることに。
捕まった連中について、名前はご存知だったそうで、「まさか」と驚きつつも、この快挙には大いに喜んでいただけた。
血濡れた服の私に、イヤな顔ひとつせず挨拶まで求めてくださって。別れ際には、感謝の言葉までいただけた。仕事仲間の皆さんも、なんだか鼻が高い感じ。
ああいう感じの方ばかりならいいのだけど……
でも、そううまくは事が運ばない。
街へ近づくほどに、道行く人からの視線は、驚きと当惑入り混じるものに。私のことは、もう広く知られているようで……
真新しい、詳細不明のお尋ね者が、他のならず者連中を捕えてきた。そうとしか思えないこの状況に、どういう反応を示せばいいのか、とても迷っているようだった。
それと、私のことを抜きにしても、結構な大捕り物だったわけで。盗賊一味の行列もまた、大きな存在感を示し、周囲の人々の戸惑いを助長する。
こうした騒ぎの渦を伴いながら、私たちは街の入口に着いた。日がだいぶ傾いているけど、周囲にはそれなりに通行客がいる。
さすがの衛兵の方々も、この一団には当惑していらっしゃる。とはいえ、すぐさまお仕事に取り掛かるあたりは、立派なものだと思う。
果たして、事前の偵察や調査等から知れていた一味の全員が、遺漏なくお縄についていると確認。ちょっとしたどよめきが起きる。
それから……私自身申し訳なく思うのだけど、このワケありな功労者とのやり取りに。この場を取り仕切っている様子の、若い隊長の方が私に向き直った。
「当該盗賊団の一味、全員の確保を確認した」
この後は、仲介の宿屋なり酒場なりがあれば、そこを通して報奨金等が支払われるという流れだそうだけど……
引きつれてきた罪人たちを引き渡す前に、私にはやってみたいことが一つあった。仲間の皆さんにはすでにお伝えしてあって、やってみる価値のある「賭け」だと賛同をいただいている。
一度深呼吸をし、腹を
「後で必ず、この者どもを引き渡しますから……然るべき場所へ連れて行く道中、私が先導して連れ回すことを、お許し願えないでしょうか?」
「……
私がどういう存在――というか、扱いなのかは、もはや周知の事実。端正なお顔が渋面で歪むのだけど……
そこへ、仕事仲間のお一人が動いた。どうも、かねてより仲のいい間柄のようで、隊長さんの肩に気兼ねない様子で肘を置く。
「なんだ」
「面倒なことになったって思ってんだろ?」
「わかってて聞くな」
ああ、やっぱりそうなんだ……
顔には出さず、心の中で頭を下げる私だけど、話には続きがあって。
「しかし、面倒を持ち込んだのはこの子じゃないぞ? 現場を知らない上の連中――ああ、いや、まっすぐ上じゃなくって斜め上の連中が、明後日の方向見ながらお達し下さったんだろ?」
この言い回しに、仕事仲間の皆さんが含み笑いを漏らした。
それでも、衛兵の方々は硬い表情のままだけど……
「少なくとも、この子は、お前らの面倒をひとつ片づけてきた……違うか?」
「そうは言っても、組織ってものがあるだろ」
「まあまあ……ウチの指揮官殿から、実は耳寄りなニュースがあってだな」
こういう流れは、打ち合わせしたわけではないのだけど……自然な流れで話を振っていただけた。軽く頭を下げてから、隊長さんに向き直る。
「引きつれたこの者どもを一種の装飾として、この街の皆様方の前で、一席ぶたせていただければと思っています。それが許されるなら、今後も、同等の連中を捕らえていく所存です」
これに、信じられないという目を向ける隊長さん。他の衛兵の方も、周囲で見守る人たちも、真顔でかなり控えめにざわつくばかり。
でも、私についてきてくださった方々は、私の言葉を疑いもしていない。
「それができる、と?」との問いかけに、説得役のお兄さんは、かなり得意そうな顔になり、無言で罪人たちの行列を手で指し示した。
「いやさ、俺の手柄じゃねーんだけど」
そう笑うと、隊長さんがつられて少し表情を崩した。そして……
「わかった」とお返事をいただけた。
「君の一席とやら、その内容次第では我々の判断で介入させてもらう。本件の功労者というのは承知しているが……
それはもちろん、当然の処置だった。私は「ご同行、よろしくお願いします」と、深く頭を下げた。
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