第31話 お尋ねガールの手腕
このまま起きないでいてくれることを祈りながら、私は同じベッドに寝転がり、男の方に身を寄せた。
次いで、ベッドの方へと手を押し込むことを意識しつつ、ベッドと男の左半身の間へ、手を滑り込ませていく。これに微妙な反応が、あるようなないような……
結局、起きる感じのない男の体重を感じつつ、私は滑り込ませた両手に力を少しずつ込めていく。慎重に、慎重に。男を仰向けから寝返りを打たせて横向きに。
この体勢なら、後はどうとでもなる。
後は、流れるように。男の首に腕を回して締め上げ、横向きの姿勢からうつ伏せに。その顔は枕に強く押し付ける。
さすがに、ここまでされると起きるのだけど、手綱はこちらの手にある。私を振り落とそうという背筋の動きに、私は膝で男の腰椎を圧迫することで抑制した。
また、寝転がってうつ伏せにされた男の右腕は、体の下敷きになって左脇のほど近くにある。私は右腕で首を締め上げつつ、左手を男の右手へと伸ばした。触れた瞬間、ビクンと反射的な動きを示してくる。
「大人しくするまで、一本ずつ折る。指の次は腕、脚、最後に首だ」
耳へ囁きかけるも、これで大人しくなる感じはない。むしろ、抵抗は強まったようにさえ感じる。
若い女の声だからって、甘く見られてる。
私は、男に聞こえるようにため息をついた。
本当に、
でも、「折られた」とは思ってもらう。
組み敷いた体の下で抵抗する男を全身で制動しつつ、神経は左手へ。男の右小指を握るこの手に集中し――
男の関節部に力を込め、無理にねじり曲げる。
より一層、くぐもった声が強まる中、私は続いて男の右薬指を手に取った。
右小指と同様に、これもまた、脱臼させる。反応なんて待たない。
「大人しくするまでやる」
全身を震わせる男に冷淡に告げ、私は
と、ここで男の動きに変化が。背中から抑え込む私を振り落とそうという抵抗が収まって、今は痛めつけられた右手辺りを震わせるばかり。
「殺されたくなかったら、右手の指で円を作れ。3秒以内だ」
あえて、痛めつけた方の手で指定すると、男は震える指先を動かしていき――
円を作ろうという指と指の間に、私は左手を置いて壁とした。
何も見えていないこの男も、何があったのかは察しがついているはず。その耳元で、私は「3」と秒読みを始めた。
途端、抑え込んだ頭を横に振ろうという動きがあった。命がけで懇願するように。
私は、壁にしていた左手を抜いた。腰から剣を抜いて、わざとらしく鞘鳴りさせる。
「下手な動きをすれば、その場で殺す。許可なく口を開いても殺す。首だけ持ち帰って報奨金に変える。お前の命はこちらの手の内にある。わかったら、右手でベッドを軽く2回叩け」
短く切った言葉を一方的に告げた後、男は言われたとおりに、ベッドを2回叩いた。
その手付きは、どうにも弱々しいものだった。
こうして、言われたことを了承した上で、命を賭けてくるってことは無いでしょうけど――
私は男を解放し、ベッドから身を起こした。両手で剣を構え、命令を下す。
「両手は頭の後ろに。ゆっくり身を起こして、こちらに向け」
男は、ゆっくり、諾々と動いた。こちらの反応を伺うように、ひとつひとつの動作を丁寧に。
やがて、身を起こして向き直った男は、全身にびっしょりと汗をかいていた。
もちろん、顔も。本来はたくましいであろう髭面は汗だくで、この場にいる唯一の女性を
「これから捕縛する。都度命令するまで勝手に動くな」
この命令にも大男は従った。剣を構えて威嚇する私の前で、皆さんが手際よく敵を捕らえていく。
こうしてまた一人。
構えた剣を鞘に納め、私は軽く息を吐いた。
――酒臭かったなぁ、もう……
ともあれ、この程度の感想が出るくらいの相手で何よりだった。
寝込みを襲ったのだから、楽に終わって当然ではあるのだけど。
ただ、手際の良さは皆さんにも認めていただけているようで、敵地の中ながらも、感嘆の視線を向けられた。
こうした調子で、私たちは2階の各部屋をひとつずつ制圧していった。
いずれの部屋の主も、やはり相当な酒を飲んでいたようで、強い酒気を漂わせながら深い眠りについていた。
おかげさまで、大して手間取ることはなくて、それは良し悪しといったところ。
ただ、縛り上げた連中を、例の屋根裏部屋にまで運ぶ余裕はない。四肢の拘束に加え、目隠し猿ぐつわも足して、さらに各人のベッドに
これなら、下の階の連中に何かを知らせることはできないはず。
もっとも、あまり時間をかけようという気はないのだけど。
縛られた連中が何か知らせるまでもなく、向こうが感づいて動き出す恐れはあるのだから。
2階を完全制圧し、あとは1階。悪党どもが数人固まって賭博に興じている居間が、最後に残った。
起きている奴が複数となると、さすがに少しは……
血を見ることになるかもしれない。
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