第16話
次の日、冒険者ギルドへ行くと髭の紳士ことガイさんが待ち構えていた。
「公爵家から早速返事来たぞ」
「早いっすね」
「それだけお前に期待してるんだろ」
「そんなもんすか?」
「そんなもんだろ?貴族がこんなに早く対応するとか中々無いぞ。普通に1週間位待たせるぞ」
「うへ~『時は金なり』て言葉知らないんですかね~」
「ほう、良い言葉だな。俺は知らんかったけどな」
詳細を聞くと、面会は何時でも良いとのことで、公爵家に来るようにとのお達しらしい。
身なりも特に整える必要なしとのことでそのままアースガルド公爵家の行き道を聞き、ギルドの紹介状を携えていざ行かん公爵家!!
道に迷いました・・・
よく考えると私は方向音痴で数回行き来しないと道とか覚えられない人でした。
仕方なしに通行人に道を聞きつつ公爵家を目指し、何とか到着しました。
「ふへ~豪邸・・・嫌、お城?」
「おい、そこの妖しい美少女!!」
「なんすかー?妖しくは無いですが美少女です!!」
「おう、自分で言うとは・・・まぁいい、そこで何してる?」
門番のおいちゃんが声を掛けて来た。
丁度良いので紹介状を差し出し自己紹介と面会を希望する。
「冒険者ギルドの紹介状です。公爵閣下の依頼で参りましたローズマリーと申します」
「おお、そうか聞いているからこちらで少し待っていてくれ」
そう言って門の詰め所で待つこと少し、白髪の見るからに出来そうな人がやって来た。
「お待たせしました。私は当家の執事をしております。ご主人様がお待ちですのでどうぞ私について来てください」
「了解であります!!」
詰め所を出て歩くこと数分で奥に見えていた城かと思えるような豪邸へと案内された。
執事さんはメイドさんに私の応対を任せると「ご主人様に知らせて参ります」と言い客間を出て行った。
目の前にはメイドさんが用意してくれたお茶とお菓子が置かれている。
見るからに高級そうだが味は如何に?
めっちゃウマ~い!!お茶は紅茶でダージリンですかね?
柑橘系の香りが鼻を抜け清々しい後口にマドレーヌの様な焼き菓子が2つ添えられています。
これ絶対美味しい奴です!!いざ実食!!
こちらもウマ~い!!バターの質が良く上品な甘さ控えめで私好み。
デパ地下で売ってる有名店のお菓子に負けないクオリティーです、流石公爵家!!
中世ヨーロッパ的な世界だけに一般庶民には食べられないレベルのお菓子で甘未に飢えた私は1口1口を噛みしめる様にお菓子とお茶を堪能し幸せ気分を堪能していると、何者かが入室して来た。
「幸せそうに食べよるな」
「あ、失礼しました」
「いい、堅苦しいのはわしも好まん。先ずは満足するまで食べるとよい」
「あ、ありがとうございます」
本当に満足するまで堪能した。
公爵様も紅茶とお菓子を堪能している。
やはり食の美味しさは万国共通で貧富や地位、異世界関係なしに人を幸せにする。
2人でお菓子と紅茶を堪能していると、更に入室してくる者が居た。
見ると何処かで見たような既視感・・・
首を捻りながらその人物を見ていると思いだした!!
「ヒルデじゃん、どうしてここに居るっすか?」
「あら、言ってなかったわね。改めまして、ヒルデガルド・フォン・アースガルドと申します」
綺麗なカテーシーを決めて挨拶するヒルデガルド嬢に「おお!!」と言いながら拍手するローズマリーと言う何とも締まらない感じとなったが、ローズマリーも冒険者らしい挨拶を返す。
「ご指名頂きましたC級冒険者のローズマリーです」
何故か敬礼するローズマリー。
この場でこの意味が解るのはローズマリーと目の前の少女だけだろう。
「何じゃ面白い挨拶じゃな」と公爵様は言いながらも焼き菓子をむしゃむしゃと食べている。
「挨拶は終わりましたし、ヒルデでいいわよ」
「了解っす、ヒルデ様」
「それで貴方の事は何と呼べばいいのかしら?」
「何とでも」
「そう?じゃあ犬と」
「いや~それは流石に」
「冗談よ」
「冗談すか?」
「それで、仲いい人は何て呼ぶの?」
「ローズと呼びます」
「ではローズと呼ぶわ」
「了解っす、ヒルデ様」
お互いの呼び名が決まった所で公爵様が様子見を止めて話し出す。
「それじゃあローズ、依頼は受ける良いのだな」
「はい、ご依頼お受けします」
「そうかそうか、
その後は依頼内容の確認とお菓子について語り合った。
何でもこの焼き菓子はヒルデ様の考案らしい。
公爵様が考案者の名前を取ってヒルデ焼きとしようとしたらしいが、ヒルデ様がそれを阻止してマドレーヌと名付けたそうだ。
「では、後はヒルデガルドに色々聞いてくれ。ヒルデガルドそれで良いな?」
「はい、お父様」
「ではな」
そう言って公爵様は去って行った。
公爵様が居なくなるとヒルデ様が聞いて来た。
「この焼き菓子の名前で何か思い当たる事は無い?」
思い当たること?元居た世界の焼き菓子と同じ名前の同じ味であちらの世界の高級店と同格のレベルの焼き菓子美味かった。
「良い名前ですね。でもヒルデ焼きも捨てがたいですね」
「タイ焼きみたいで何か嫌!!」
「タイ焼きはタイ焼きで美味しいですが、大判焼きも捨てがたいっす」
「そうよね~大判焼きも・・・あなた・・・」
「何すか?」
「とぼけてる?」
「何をっすか?」
「野球と言えば?」
「虎軍す!!」
「何言ってるの野球と言えばジャイアントでしょ!!」
「おーそれは相容れない問題っす」
「は~もういいわ・・・」
「え?もう良いんすか?」
「貴方このゲームの様な世界に転生した元日本人でしょ?」
「お!それを知ると言う事はヒルデ様も同郷ですか?」
「そうよ」
「ほ~よろしくっす」
「はいはい、よろしく・・・違う!!」
「え?」
何でもヒルデ様は元となったゲームでは所謂悪役令嬢と言う主人公の壁的なポジションで、最後は国賊として追われる運命となるらしい。
「大変ですね」
「他人事みたいに!!」
「みたいと言うより他人事っす」
「あ~そうよね~でも貴方、主人公よね?」
「元ですが?」
「そうよね~・・・」
ヒルデ様はゲームの事はある程度知っていたようだ。
死んだ際に神を名乗る者に「願いを叶えてやるから異世界行かないか?」と誘われてこの世界に来たそうだ。
「それでその神に何をお願いしたんすか?」
「え~と・・・(ボソッ)裕福な家庭」
「え?何すか?聞こえないっすよ?」
「裕福な家庭よ!!」
「は~公爵家・・・国でも指折りの裕福家庭っすね」
「それで?」
「それで?」
「貴方は何を願ってここに来たの?」
自分の経験したことを語るとヒルデ様は溜息と共に頭を抱えた。
★~~~~~~★
「おい、あれってお前が勧誘した子だよな?」
「おお、裕福な家庭が望みだったから丁度いいから公爵家の子供に転生させたぞ」
悪びれも無く酒を煽りながらそう語る神。
聞いた神も呆れかえるが面白いと思う自分も居るようだ。
ここに集まる神々は誰が呼んだか知らないがトリックスターと呼ばれる者たちである。
面白いことが大好きであることには変わりがない。
特に神々の中でもその傾向が強い者たちの集まりなのである。
「面白いから許す!!」
「おお、許されない様な事はしてないが望みどおりにしたんだから誰にも文句は言わさんぞ」
「まぁ取り合えず面白いから主人公ちゃんと共に注視だな」
「主人公とはどっちのことだ?」
「両方とだけ言っておこう」
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