第7話 ホワイトレイク

猪狩は東京に住んでいた時は、事件の取材や、工場のネオン、何でもない雑踏などを撮っていた。人を撮るというより景色や人と共に写る現在を撮る事が多かった。ウラリヨックの街は緑豊かな街だが猪狩の撮りたいと思う景色とは違う。東京タワーもスカイツリーもいつでもそこにそびえ立って東京の主役を争っていたのにそのどちらもここにはない。ウラリヨックの街は夜になると月の赫々たる明かりで街は照らされる。不気味な静けさで包まれ浮き沈みする不穏な黒い影が圧力をかけてくる。その支配された街に猪狩はカメラを向けない。


北ハイナ地区を出る際、ポペットと黙示録について意見を聞いた。堕天使ケルビムから裁判の杖を奪うには力不足で仲間不足な事。精霊の宿る装備が必要な事。やらなければならない事が山のようにあった。


「これから、精霊と仲間を集めていく。コロンの案内でホワイトマウンテンに向かう」


「ホワイトマウンテンってなんか寒そう」ののかが震えて見せた。


「ホワイトマウンテンは僕の住んでいたホワイトレイクから登れるよ。一年中美味しい果物ができる所だよ。そこへ行くって事は狙うはチリーヌのダブルリングだね」とコロン


チリーヌは血リーヌとも揶揄されてきた危険な装備品だ。所有者をリング自ら選び選ばれなかったものは不幸な最後を遂げると言い伝えがあること、ダブルリングはホワイトレイクの者が所有する事で精霊が降りるとされているとコロンが説明した。


「っていうことは、コロン君がダブルリングをつけるの?」とののかが聞くが不幸な最後を遂げるかもしれないものを誰が持ってくれるのか言ってはいけない事だったかと反省した。


「ポペットさんの話だとホワイトマウンテンに住む兄弟がダブルリングを所有しているそうだ。まずはその兄弟を探そう」


と猪狩はラクダから馬に乗り換えてホワイトマウンテンを目指して進む。

ホワイトマウンテンまでの道のりはバラックの立ち並ぶ村を通り荒れ放題の田畑をいくつも通った。山越えをして見えてきた白い雪を山頂に被った山がその名の通りホワイトマウンテンだ。昔の面影を楽しむようにコロンが話し始めた。


「僕は小さい頃体が弱くて小さくていつも友達と同じ様に遊べなかったんだ。そんな時にルイとワキヤっていう子が一人ぼっちの僕のそばで遊んでいて、いつもそばに居てくれて仲間に入れてくれたんだ。僕が遊べなくてもそばにいてくれて遊んでいる姿を見る事がとても楽しかった。今でもホワイトレイクにいるかなぁ会えるといいなあ」


「探そうよ。ルイとワキヤ」ののかは屈託のない笑顔で言う。


「そんな昔の話なんだから、無理だよー」


「リングの話とか知ってるかもだよー、長年住んでる人に聞けたら情報ゲットできたりしてー」


「そうだな、民話や神話でも聞けるかもしれないな、訪ねてみてもいいんじゃないか」と猪狩も賛成した。


ホワイトレイクに着きコロンの昔日の面影を頼りにビストロを見つけた。柔らかなオレンジの電球色の光が窓から漏れブイヨンやガーリックの香りが食欲をそそる。店に入ると店内は賑わい一つ空いているテーブルがあり席に座る、飲み物と食事を頼みウエイターに話しかける、


「この辺りにルイとかワキヤっていう名前の人が住んでいたと思うんですが知りませんか?」


「そんなの、誰でも知ってますよ。この店にもよく来ます。ルイはホワイトマウンテンの塔に住んでいる番人だし、ワキヤは先生をしていますよ」


「そうなんですか、早速手がかりですね。ありがとうございます明日にでも訪ねてみます」


「実はルイはウォーリー兄弟を探しに行ってるんですけどもう一週間も経つんです。何かあったのではと皆心配しています」


「そのウォーリー兄弟っていのはもしかしてダブルリングの持ち主ですか?」


「ダブルリング?ああそれはもしかしてバングルリングのことですね。そうですよ。ウォーリー兄弟が身に着けていますね。」


「ルイとウォーリー兄弟に何かあったのかもしれない。助けなきゃ」

ののかは本能的に立ち上がる。


「落ち着けののか、何の準備もしないまま山に入ったら二の舞になる。作戦を立てよう。まずは塔に行ってルイの足取りを追えるヒントがないか探すんだ。ワキヤと仲がいいのならワキヤからも話を聞こう。コロンもそれでいいか?」


「ホワイトマウンテンの案内は僕がするよ。お願いだからルイを見つけて」


「まだ、遭難したと決まったわけじゃないからコロンも落ち着くんだ。食事を済ませてワキヤのところへ行こう」


「うん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る