第6話 遊牧民とののか 後編
砂漠にオアシスを見つけ水を汲む少女リリーと出会った。
「あなた女の子なの?」
「見つかったら危ないんじゃない?」
「はい、そうなんですけど、この通り髪も短くしていますし、砂漠にまで警備隊は目を光らせてないって父が言ってました」
「そういうことなのね」
リリーの帽子には小さな羽根が付いている。
「ちょっとお尋ねしますが、あなたはベトハイナ部族の方ですか?」
「はい、そうですが」
「やっとみつけたー」と喜ぶコロン戸惑うリリーは重たそうな水瓶を頭に乗せた。
「その水は僕らが運びますよ、よかったらラクダに乗ってください」そういうとリリーをラクダにのせた。
「皆さんはこの砂漠で何をしているんですか?悪い方には見えないし」
「えーっと、私たちはー…サーカス団として各所を訪れてサーカスを設営をしていましてー、えーあのー、先見隊として場所探しをしているところなんです」
「そうでしたか、それなら私たちのところに来てください。父が部族長になので歓迎してくれるよう話してみます」
「それはありがたいです。ぜひよろしくお願いします」
ののかは自身の嘘話にニヤけてしまいながら部族に近づくチャンスをうまく掴んだと思い猪狩とアイコンタクトをとった。
ベトハイナ部族が居住を構える北ハイナ地区にはゲルがいくつか立っており、複数の家族が暮らしている景色があり穏やかな時間を刻んでいるように見え子供たちが外で遊んでいた。遠くに羊を放牧しているほど豊かな自然があった。
「こちらが私の母のハニーで置くに座っているのが父のポペットです」
ゲルの奥に鎮座しているポペットは威厳のある装飾を施したマントをかけていたので三人は恐縮した。
「ポペットさん、こんにちは。私は猪狩誠こちらはコロン、彼女は月海ののかです。リリーさんと出会いこちらにお邪魔しました」
「サーカス団の方よ、こんな所までよく来たものだがこの土地は見ての通りわしらベトハイナ部族しかおらん、よそを探した方が賢明だろう。ののかさんにはこの辺りは安心して過ごせるだろう。どこから来たんだ?」
「一つ山を超えたところにあるウラリヨックの森からきました。」
「ウラリヨックは危険だ。」
「ご存じなんですか?」
「ああ、以前ウラリヨックの街に住んでいたんだ。その頃は第四の天使ドミニオンの傘下にあって皆幸せに暮らせていたんだ。しかしある時第二の天使ケルビムと名乗るものが現れ民の自由を奪い、仕事を奪い、愛する人を奪われた。あれは、天使ではなく堕天使だ。全てに干渉し反抗するものは簡単に命を奪っていくんだ。街は一変し生きるために声をあげることをやめてしまった。だから街を出るしかなくなってしまったんだ。」
ポペットの話は三人の心に重い現実を突きつけていた。ウラリヨックの街の悲惨な過去を想像するととても恐ろしかった。
「イーロン夫人もご存じですか?」
「ああ、もちろんだ、ウラリヨックの街を監視するために置かれた使徒だ。近づかない方がいい。若者たちよ、精霊を集めるんだ。もしかしたら、精霊の宿る杖、たしか裁判の杖だ。あれがあればあのころに戻せるかもしれない。」
「裁判の杖、黙示録に載っていました」と猪狩は身を乗り出す。
「ウラリヨックの若者たちよ、自分の街を取り戻しなさい。こんな所に来ていてはいけない。精霊の力を借りてあの頃の美しいウラリヨックを取り戻してくれ。」ポペットは力強い眼で見つめてきた。
「君たちの目の輝きを見たらわしの希望を託したくなってきたよ。」
「僕たちも逃げていてはダメだと思っていました」と猪狩
「僕たちで裁判の杖を探そう」コロンも前のめりになる。
「この羽根を三つ、いや、四つ用意しよう」と言ってポペットはゲルを出て行った。外にでて焚き火の用意を手伝っているとポペットは金色の平たい包み紙を両手のひらに大事そうに持ってきた。
「ベトハイナ部族に伝わるベトゾワンの羽根だ。君たちを守り続けるバリアのようなものだ。これに精霊をおろす。いいか、両手で受け取れ」
そう言って金の包み紙を焚き火の上に持っていくと金の包み紙は一瞬で消え、焚き火の炎に踊るかのように四つの羽根が舞った。その羽根は付け根にふわふわとした灰色羽根があり先端はふんわりと丸みがある白い羽根だった。焚き火の熱に舞いながらそれぞれの手元に飛んできたところを皆両手で捕まえた。温かい気持ちになったのは焚き火のせいか、羽根のせいかわからなかったが三人は胸元に羽根をつけ、ピーターは首輪につけた。
一晩をゲルで過ごし翌朝ウラリヨックへ戻ることにした。ののかはピーターとリリーと羊を見に出かけた。
「実はね、サーカス団っていうのは嘘だったんだ」
「えっそうだったんですか」
「ごめんなさい。街を離れたのは私のせいで、私がいると危険だからって」
「わかります。私たちは大事な人を危険に晒してしまうから。ののかさんにとっては猪狩さんやコロンさん、ピーターさんが大事なんですよね?」
「うん、そうなの。大事な人を守りたいの。自分にできることを見つけたい。強くならなくちゃ」
「ひつじのひーさん、ひつじのつーさん、お腹いっぱいもくわもぐ食べてー🎵」
いつもの調子でののかが鼻歌を歌っていると、また雨が降りだした。
「すごい、雨乞いの歌ですか?」
「いや、そんなたいそうな歌じゃなくてただの鼻歌だよ」
羊毛を洗う手伝いをしているコロンは走って戻ってくる二人を見ていた。
「ののかが歌を歌うと雨が降るのね。ここへ来る前もそうだったし」
ハニー夫人はとても驚いた顔でポペットを呼んだ。
「お父さんすごいわ、ののかさんが雨を降らせてくれたわ」
「ほんとに、雨が降っている。すごいな。近頃雨がふらなくて、牧草が育たなくて困っていたんだ。ののかさんの歌はすごいな」
「いえ、たまたまだと思いますが」
「ののか、やったね」とコロン
「ほんとにすごい事だ。ありがとうののかさん」
ポペットに感謝され、ののかにも人の役に立つことがあるんだと初めて自信を持つことができた。ピーターはまた体を捻って雨水を飛ばしている。
雨が止むのを待っている間、羊毛の手入れや洗浄を手伝って過ごし頂いた暖かい服や羊の油をラクダに乗せて準備を整える。
雨が止み虹の出る中三人と一匹はポペット家族にお別れを言ってまた、旅に出る。
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