第4話 熾天使の黙示録

猪狩とコロンは屋敷に向かった。手順はとにかく、軽いものから盗むこと。気づかれない程度の量にすること。


狙うは書庫にあるとされている黙示録。イーロン家に伝わる古書にこの世界の始まりとそのものの目的論が書かれている。夫人のご先祖が天使の最高位の熾天使(してんし)セラフィムの使徒だった言い伝えで今でも街の人たちからの信頼は厚い。問題は、見たこともない黙示録が探し出せるかどうかだ。



「コロン、屋敷が見えてきたぞ」


二階建ての煉瓦造りの屋敷には使用人が二人住んでいて子供は一緒に住んでいない。独り身になってからは庭の花畑を愛し、芝の庭園にはたくさんの花壇がある。自慢の花が咲いたらそれらをモチーフに絵を描いてプレゼントするのが楽しみになっている。毎日飲むのは紅茶、ケーキよりもクッキーが好き。


「準備はできてるんだろうな?」


「すべて、計画通りに」と微笑むコロン


煉瓦の隙間に足をかけ軽やかに登り二階のバルコニーに到着し、鍵を開けておいた窓から音も立てずに侵入した。廊下に出た二人はすぐに書庫を見つけた。


「書庫はあれだな」


部屋に入ると本棚が天井までびっしりと本が詰まっていた。花の絵画や、大理石像、古い包み紙が巻かれたものなどもある。カーテンをしっかり閉めベッドライトを消した。するとぼんやりと発光している場所がいくつか現れた。特に光の強い場所がある。天井に一番近い場所にある本そして戸棚に備え付けの梯子だ。猪狩は光を頼りに梯子を登りまだらに光る本を手にとってベッドライトをつける。



コロンは日中夫人に会いに行った。


「夫人こんにちは、いい天気ですね。」


「あら、コロン君いらっしゃい」


「あっ、ここ花が荒らされてます。」


「あら本当、花が踏み潰されているわ。」


「最近怪しい人がこの街を徘徊していて、豪邸の品定めをしてるって聞きました。怖いですねー」


「私の家にも来ているのかもしれないわ」


「夫人、クッキーを焼いたのでよかったら召し上がってください」


「こんなに沢山ありがとう。わたし、クッキー大好きなの。お礼に絵をプレゼントしましょうか。アトリエにある好きな絵を持って帰ってね」


「ありがとうございます。ではアトリエを見せていただきますね」


家に入ったコロンは素早く二階にあがり、バルコニーの窓の鍵を開けておいた。次にアトリエに行き筆に蛍光塗料を塗った。

毎日絵を描く夫人は、コロンが言った怪しい人の話を思い出し本が心配になり、蛍光塗料のついた手のまま、書庫の扉をあけ、梯子を登り黙示録が無事にあるか確かめたのだった。ほっとすれば紅茶を飲み睡眠薬の入ったクッキーを食べる。


こうして、二人はいとも簡単に黙示録を見つけ出したのだ。猪狩はナイフを表紙のちりに差しこみ表紙だけを剥がし持ってきた本に黙示録の表紙だけを被せあたかもそこに黙示録があるかの様に装って元に戻した。


手際の良い二人のシーフはこれを機に、精霊の宿る宝を見つける狩人となっていく。

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