第2話 山小屋
「おかえり誠ー♡」
栗色のクリクリヘアーで痩身の男の子が藍染のエプロンをつけて迎えてくれた。ピーターと同じ青い目をしていて吸い込まれそうな美しさだ。
「げっ、女ー!」
美しい顔をした初対面の男の子に「げっ」と言われてもショックを受けるなののかは後ろから押されて家に入る。
「紹介するよ、同居人のブリッジャー・コロン・ミカエル君、みんなコロンって呼んでいる。」
「こちらはえーっと」
「月海ののかです」
「あっそうそう、月海さん」
「ののかでいいです。お邪魔します」
山小屋には玉ねぎのいい香りがして、お腹が空いてきた。
「怪我してるから、保護してきただけでそのあれだ、変な目でみるなよ」
「ふぅーん。」
コロンはののかを上から下までじっくり観察して人差し指であちこち体を指差した。
「じゃあ、まずはその怪我を治そう。それに汚れた服と靴それから匂いがきついからお風呂に入ってちょうだい」
匂うと言われてまたショックを受けるののかを椅子に座らせてコロンはその前に立った。モゴモゴ何か言いながら左手でののかの肩を撫でながら右手で親指と他の指を擦りあわせている。
指先から小さな煙がポンと立ち揺らめいてほんのりピンク色になった。コロンは頭のてっぺんから足先までなでる仕草をして煙が消えたのを確認した。
「どう、もう痛くないでしょ?今日は、豚肉を手に入れたからオニオンとゴマをまぶしたポークソテーにするよ。早くお風呂に入っちゃって」
そう言って、ののかを風呂場へ案内した。
言われるがまま、お風呂に入ろうと上着を脱ぐと左肩が動かせる事に気がついた。擦りむいたはずの膝もきれいに治っていた。
「あれってうそ、魔法?治ってるー!痛くなーい」
両腕をあげてくるっと回転してみた。かかとの上のスニーカーが擦れて痛かった所もきれいに治ってるやっぱり魔法だ。ここは異世界なんだ。じゃあ、あたしは本当は臭くないのかも。女子高生が臭いなんて、どういうことよ。すっごい、気になる。
「あの子を外で歩かせることはできない、あのままじゃまずい、なんとかごまかせないか?」
マグカップに入れたホットワインを飲みながらチーズに手を伸ばそうとした手をコロンが叩いた。
「なんで、厄介なの連れて帰ってきたのよ?こっちまで疑われたら困るじゃなぁい」
ののかがいない方が、言葉使いがまったりとしてお姉さん感が増してくるコロン。
「そんなに、匂うのか?」
「誠にはわからないのー?女は匂うから捕まるの。どんなに男装しても匂いは変えられないからねー。歩き回ったら天使たちも気づき始めるかもしれないよ。そうしたら、捜索隊が来るかもしれないそれでもかくまうの?」
「ののかは俺と同じなんだ。突然この世界に落とされてここで生きてみろって偉そうな神様からいじめられてるんだ。ほっとけるわけないだろう。助けてくれコロン」
「はぁー、それならやっぱり男の子になり切ってもらうしかないんじゃない?それに、肉や米以外にも精霊の宿る装備や武器を盗んでスキルを獲得する必要があるね」
コロンの傷を癒す力は、胸につけたペンダントに宿る精霊との交わした暖色の契約によるもので最初に契約した色の系統のものしか装備することはできない。ピーターは首輪についた黄色いトパーズの宝石に宿る精霊と太陽の契約をしていて能力を高める事で心が読めてしゃべることができる。
「お風呂ありがとうございました」
すっきりした顔のののかは用意されていた白いフリンジのついたシャツとバルーン型の白いパンツを履いてエキゾチックな装いを着こなしていた。
「これは、この国の伝統衣装ですか?」
「白は子供がよく着る服だ。背も小さいし少年に扮して目立たない様にするんだ」
「はぁ、少年って」
「何の能力ももたない女は天使によって殺される。天使が正義で絶対なんだ」
「アダムだって、イブが必要でしょ?」
「アダムとか、イブとかそういう問題じゃないんだ」
「とにかく今は、飯を食って作戦を練ろう」
テーブルにはトマトのスープと、ポークソテーとご飯が3人分用意されていた。ピーターはもうご飯を食べ終えていたようでテーブルの端に前足をかくしてちょこんと座っている。
ののかは、ピーターの額をそっとなでて、見つけてくれてありがとうと言った。まぶたをゆっくりと閉じて返事をするピーターに癒されもっと撫で尽くしたかったが先輩だった事を思い出し遠慮した。
暖かい料理のありがたみが身に沁みたののかは残さず料理をたいらげた。テーブルナプキンで口元を拭きながら、今日あった事を思い返していた。2泊3日の学校行事の1日目で赤沼辺りを歩いていて…そうだ、リュックに何かはいっているかも。
玄関に置かれていたリュックから、レジャーシート、水筒、もしもの着替えが1セット、常備薬、充電器、懐中電灯がでてきた。着替えがあって助かったが他には何の役にも立ちそうもない。
「俺は用事があるから、食事が済んだらののかは先に寝てもらってかまわない」
そう言われると確かに眠くて眠くてしかたがない。足がふらつきながら、部屋に案内されベッドに潜り込んだ。ベッドの足元にピーターもやってきてゴロンと体を横たえた。
「なんか、すごい速さで眠ったけど大丈夫か?」猪狩がコロンに聞いた
「夢見草を急いで入れたから、ちょっと効き目強かったのかも。はははっ」
コロンは薬草学の知識を応用しリラックス作用のある夢見草をスープに使っていた。
「小麦と米は必ずほしいし、ののかがいるならどこかで羽根かナイフも調達しないといけないね」
「コロンはもっと、ののかの事を嫌がると思ったよ」
「そりゃ面倒な事は嫌だけど、ピーターがあの子の足元にずっと寄り添ってたから、なんか
不思議なんだけど、それって拒んじゃいけないことの様な気がして」
「確かに、ののかを見つけたのはピーターだ。明日聞いてみよう、ののかを助けた理由を」
コロンと猪狩は全身黒のフーディウェアにジョガーパンツに着替えて夜の闇へと出掛けて行った。
「さあ今宵も戴きましょう」
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