第21話「空き地の決戦①」

 選ばれたのは、空き地の草原であった。


 恐らく既に結界とやらが貼ってあるのであろう――周囲に人はいなかった。


 一対一、地の利の介入する余地のない戦闘形態バトルマッチ


 成程、暗殺の腕を試すには、うってつけの場所だろう。


 今回は、試合開始の合図を出す者として、皆川さんが赴いていた。にこにことした笑みを浮かべながら、私たちを結んだ線の中央に立っている。


 私は、包丁。


 昏黒くんは、手。


 獲物は自由――最小の労力で、相手を殺害すること。それのみが求められる。


「では、双方よろしいでしょうか」


 皆川さんのそんな合図に、私たちは首肯うなずいた。


「それでは、十のカウントの後に、開始したいと思います。それまでに動いた場合、即失格となりますので、ご容赦下さい」


「分かった」


「了解」


「――では」


 そう言って、皆川さんは少々後ろへと下がった。


 私達に巻き込まれても堪らないだろう。


「十」


 カウントが始まった。


 多分これが、私と昏黒くんとの最後の会話たたかいになる。


 彼と殺し合ったことはなかったけれど、殺し方を教えてくれたこともあった。


 優しくしてくれたことも、恩に感じることもあった。


 それも全て、今回の闘いのためだった。


 全て仕組まれたことだった。


「九、八、七」


 まあ――そんなことに落胆する程に、私は小さい人間ではない。


 そもそも、いつだって私の人生は、誰かのてのひらの上のことだ。


 そういう人生を自分で選択しているのだから、言い逃れはできない。

 

 そんな中で私は今回、、この殺し合いを選択した。

 

 それは間違いだった。


 きっと私にとって、この決断は絶対に間違いになると分かっていた。


 でも、選んだ。


「六、五、四」


 選んでしまったのだから、仕方がない。

 

 諦めるしかない。私にとっての最善は、昏黒くんに殺されることなのだ。そう思って、思って――しかし私は、考えた。

 

 同じような思考回路を、私は持ったことがあったんじゃないか。

 

 そうだ、家族に追い詰められた時だ。


 彼らに追い詰められて私が自殺することこそが最善だと、そう思うようになっていた。


 それでも私は、生きている。


 何故。


「三、二」


 私は、生きていたいと思ったことがない。


 さりとて、死にたいと思ったことがない。

 

 それはあの家のせいだった。あの家のお蔭で、私の家は滅茶苦茶になった。


 家の虐待のお蔭で自らを殺し、自己肯定感が消滅した女子、なんて、最近珍しくもないだろう。


 全ては、あの家が元凶だと、そう思っていて――それを支柱に、私の「死にたい」「生きたい」もどちらも考えたくないという思考は支えられていた。


「一」


 何も考えたくないのも、何も選択したくないのも、元々は、何も選ばせてもらえなかったから、そういう虐待を受けていたからだ。


 そういう生き方しかできないからだ。


 あのままの、あの男、三味成皹に出会わない世界線の私なら、簡単に首肯うなずいて、首を差し出しただろう。


 でも、もしも――もしもそれが、


 私は、何も知らずに死ぬことができるだろうか。



 

(続)

 

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