第15話「阻止①」

 決行日はあっさりやってきた。

 

 結局既さんから最初に貰った服が、仕事用の服のようになってしまった。


「その服を着用していると、人から極限まで気付かれにくくなるんだよ。あと、おまけに撥血はっけつ仕様」

 とは、昏黒くんの言。


 もう少し早く教えて欲しいものである。


 それに撥血仕様って。そんな言葉があるのは初めて知った。


 取りえず朝早くから、駅前にて演説の準備を行っているようだったので、それに合わせて、またも電車で移動した。


 まだ日が上って間もない時間帯である。


 するといきなり――駅近くの喫煙所で煙草を吸う、一人の男を見つけた。 


 間違いない、頭の中に入力した情報を参照する。


 あれは、長楽溢士だ。


 二十歳の大学生――若い身空でどうして人殺しなんかに加担したのだろう。


 そのまま長楽は、駅の外にある古いトイレに入っていった。


「昏黒くん……長楽を見つけ――」


 と、振り向いた時には、既に昏黒くんはいなくなっていた。


 例の気配消しだろうか。いつの間にいなくなった?


 すると、昏黒くんが、トイレの中から出てきて、「一人、処理完了」と言った。


「殺したの?」


「うん、殺した」


 あっさりと言ってくれる。確か昏黒くんの殺害方法は、絞殺だったか。首絞めで殺せるのはかなり良い。余計な血が流れないからだ。私の場合は、そうはいかない。トイレに放置すれば、下から滴る血液で露呈バレてしまう。


 ただ、要領は分かった。


「こんな感じで、殺していって良いのね?」


「そ。できれば、全員が集合する前に半分は減らしておきたい」


「了解」


「――っと、見つけたよ」


 と、昏黒くんは静かに姿勢を低くした。何を見つけたのだろう。


「淑景桐彦の私用車だ。あの中に、淑景がいる可能性が高い」


「車かあ、どうする? 強行突破する?」


「ここで待った方が良さそうだね。独身組はいつ来るか分からないから待機、一人になった所を狙って殺害、他は、恐らく朝食とかを終えて来るだろうから、それまでは注意をおこたらないようにして」


「分かった」


 それからしばらく待った。


 そして、次第に人が集まり始めた。市長選挙の応援演説って、ここまで人が集まるものなのだな、というくらいには、人が密集し、演説を今か今かと待っていた。しかし、いるのは主婦層や年寄りばかりであり、若者の姿はなかった。

 

 まあ、政治に興味を持つのも、余裕がないとできないことだよな、と思う。


 いくら勉強ができても、知識があっても、余裕がなければ、国のことや地域のことに興味なんて持てない。

 

 常々マルチタスクが求められる世の中である。


 そこに集まるのは生活水準がある程度高い人に、限られるだろう。あるいは無職の暇人か。


 私だって、自分の道を誰かに決めてもらっているようなものだし、選挙に行かない人のことを一概に否定することはできない。


 ただ――まあ。


 だからって、人を傷つけるのは、良くないよね。


 最後に残しておいた倫理観と罪悪感がきちんとことを確認した。




(続)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る