第12話「報告」

「お疲れ様でございました。暗殺対象の死亡を確認しましたので、報酬の方を振り込んでおきます」


「うん。ありがとう、綱頼さん」


 二人のやり取りを、ぼうっとして見ていた。


 その後銀行へ行くと、昏黒くんの通帳には、信じられない程の額が振り込まれていた。


 私はその半分を受け取った。半分とは言い条、高校生の私が受け取るには多すぎる額である。


「ちょ――ちょっと、こんな受け取れないよ」


「いや、二人組ツーマンセルだから」

 という昏黒くんからの強い圧力があり、結局お金を受け取ることになった。

 今まで欲しいものを買ってもらったことなんてないので、こんな急にお金を貰っても、どうすることもできなかった。


 近くの郵便局までおもむいて、私のゆうちょ銀行の口座に振り込んだ。


 初任給、ということだろうか。


 振り込んだ後で、やばいと気が付いた。この金額の動きから、警察側に、私の殺人が露呈バレてしまうと思ったからである。しかし今更であった。通帳にはしっかりと、収入が印字されていた。


「……まあ、良いか」


 そのまま、昏黒くんの部屋に戻ると、またも彼は寝ていた。


 警察がいつ来るか分からない以上、下手に外に出ることは、止めておいた方が良いだろう。そう思って、彼の部屋にいた。


 二人。


 ここまで安心することができる場所というのは、今まで無かったように感じる。


 安心? 


 私は今、安心しているのか? 


 人を一人殺したことを、思い出す。


「良し、死んだね」


 私が男を殺した直後、そう言って、昏黒くんは満足そうな表情になった。


「一撃で殺害とは、流石だね。家族を全員惨殺したことはある」


「偶然だよ。それに、心臓の位置なんて、何となくで分かるし」


「その何となくで分かっちゃうのが、流石ってことだよ」


「?」


「ま、それは何でも良いってこと。さ、帰るよ」


「え、もう帰るの? 死体は?」


「死体は後処理班の人が処理してくれる」


 二人で非常階段を降りながら、私たちはそんな話をした。


「元々葬られるべき人だったんだよ。それに人にはいくらでも代わりはいるからね。世の中は歯車だから――別の誰かが、直ぐに代わって取締役になると思うよ」


「ふうん、そんなもんなんだ」


「世の中って、意外とそんなものだよ。ぼくらにとって衝撃的な出来事でも、世界では大したことがなかったり、なんてこと、結構ある話だよ」


「あ、それちょっと分かるかも」


 昔、小学校のグラウンドで地盤沈下が起きて、大きく凹んだことがあった。


 私たちにとってそれは衝撃的な事実だったけれど、家に帰ってテレビを見ても、それを報道している番組は一つもなかった。私たちのいる世界は思った以上に広くて、私たちはちっぽけな存在なんだなと、その時理解させられたのである。


 時間軸は、そうして今へと戻る。


 私が殺した、あの男。


 名前は逆橋さかはし亮輔りょうすけだった。


 意外とちらりと見ただけの情報でも、覚えているものである。


 某有名企業の、代表取締役。


 確か、そんな名前だった。


 家族とは違って、あの人は関係のない人だった。


 あの昏黒くんの言いぶりだと、きっと何らかの悪行に手を染めたのだろう。自分のしていることを裁き、などとは思わないけれど――世の中から殺害されるだけの何らかの理由が、あるのだろう。


 私はそれを知らない。


 でも、殺した。


 何となく、殺した。


 ツイッターでその名前を検索しても、何もヒットしなかった。


 後処理班とやらの仕業なのだろうか。


 分からない。


 分からないが、それでも世の中はまわっているのだから、それで良いか。


 そう思って、私もシャワーを浴びて、寝入ることにした。


 温度は、いつもより熱めに設定した。




(続)

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