マネくんと担当アイドル×2②
「違う違う違う違う、誤解誤解。落ち着け、馬鹿エヴァ」
「おはよう、エヴァちゃん。よく眠れた?」
「お前はお前で平常運転するのはやめろ! ちゃんと否定しとけ!」
「えへへ……別に、否定するようなことじゃないからなあ」
「く、くそっ……」
こいつ、エヴァになら別にバレても良いと思うな~って顔してやがる……。
俺も別に、エヴァの口が軽いとは思ってないが、それとこれとは話が別である。
俺はリスク管理は厳格にしたい方だって言ってんだろ! 常に安全圏にいたいんだよ、俺は!
未だに眠そうに眼を擦っているエヴァの両肩に手を置いて、ゆっくりと言う。
「良いか? エヴァ。良く聞け、お前はまだ寝ぼけてるんだ」
「寝ぼけ……? てことは、これはまだ、夢……?」
「そうだ、半分以上夢だ。俺と斑雪は、普通に座って喋ってただけだ。肩に頭が乗ってたどころか、指先一つ触れてすらいない」
「いや、それはちょっとマネさんの甲斐性がなさすぎじゃないですか?」
「お前は俺の罵倒となったら、急に目を覚ますのはやめようね?」
単純に俺が傷ついちゃうから。
大人でも心はそんなに強くならないんだぞ。
「ていうか、やってたことも説得とかじゃなくて、半分以上催眠とか洗脳のそれだったよね……?」
「失礼だな、教育だよ」
「蒼くんはエヴァちゃんを一体、どういう方向に教え育てるつもりなのよ……」
絶対碌な子にならないよ、それ……と苦言を呈する斑雪だった。俺もそう思う。
催眠耐性の低い女の子って、字面にするだけでヤバそうな雰囲気が漂ってくるよな。
うっかり薄い本になってしまいそうである。
それだけは絶対に避けなければ……なんて思っていれば、エヴァが「ふわぁ」と小さな欠伸をしながら、
「まあ催眠なんてなくても、私はマネさんの言うことならそれこそ、何でも聞いちゃう自信ありますけどね」
なんてことを言った。
一瞬、何て言ったのか分からず、数秒かけて言葉を呑み込む。
「……え? 何急に嬉しくなっちゃうようなこと言い出してんだ? 体調とか悪かったりする? 熱測るか? 風邪薬なら、一応置いてあるけど」
「マネさんのそういうところは嫌いですけどね!? 人の好意くらい、素直に受け止めても良いと思うんですけど!」
「どう考えてもこの場合、お前が常に反抗期なのが悪いだろ……」
ちゃっかり責任転嫁しないで欲しい。ツンデレちゃんは確かに好きだと言ったが、担当となれば別枠である。
むしろ、仕事相手がツンデレちゃんだと思うと、ちょっと怠いなと思わなくもなかった。
「そこはほら、マネさんが気楽に接することのできる、お兄ちゃんみたいな人なのが悪くないですか?」
「まあ、確かに俺には妹がいるしな……」
「そうなんですか!?」
「ああ、仲が良いと言って良いのかは、ちょっと分からないけどな」
何なら年も大分離れている──今は、高校二年生だっけか。大体、7つ差といったところだな。
エヴァの一つ上である。まあ、最近は顔を合わせていないので、忘れられている可能性がなくもないのだが。
「ははぁ、妹さんも大変ですね。マネさんみたいなのが、本当にお兄ちゃんなんて」
「そこはかとなく悪口みたいに言うのはやめない? 今はもうちょっと俺を褒める流れだったよね?」
「大丈夫です、半分悪口で、半分褒めですから!」
「一応言っておくけれど、その二つは一言で両立しないからね?」
火が凍っています! と言っているに等しいことを、臆面もなく言うエヴァだった。
いい加減、斑雪からも何か言ってやれ──と、口を再度開こうとすれば、ちょっとだけムスッとした様子の斑雪が目に入った。
そのままキュッと、手を握られる。
何となく、熱のこもった目が俺を射抜いた。
「……わたしも、君の言うことなら何でも聞けるよ?」
「頬を赤らめて、ちょっと可愛く言うのはやめろ、ドキッとしたらどうするんだ」
「ドキドキして欲しくて言ってるんだけどなあ……」
柔らかく微笑んだ斑雪に、小さくため息を吐く。
そうすれば、エヴァがやたらと意地の悪そうな笑みを、満面に広げた。
「でぇきてるぅ……」
「超うぜぇ……」
あんまりにも腹の立つ顔と言い方をするエヴァに、次言った時にはぶん殴ろう、と心に誓った。
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