彼女は担当第二号②
「有名税みたいなもんだ──って言うのは、ちょっと酷か。まあ、今回は運が悪かったな」
「運が悪いとかいうレベルじゃないんですけどっ、最悪なんですけど~~!?」
「荒れてるなあ……」
取り敢えずネット上に流れた写真を集めたので、それらをチラリと見返す。
今とは違う髪色の、やや野暮ったい、けれども確かに可愛い少女がそこにはいた。
……まあ、確かに、今と比べてみれば、随分と変わったなとは思うけれど。
俺からしてみれば、
「変に可愛くないのが流れるよりは、ずっと良かったろ」
「いや全ッ然可愛くないんですけど!? 見てくださいよこの仏頂面! 愛想の欠片もないじゃないですか!?」
「ばっかお前、それはクールっぽくて良いって言うんだよ。何でも、マイナスに捉えすぎだ──大丈夫、可愛いよ。俺の目を疑うのか?」
「マネさんの目、節穴じゃないですか……」
「カウンターが強烈すぎるな」
一発KOだよこんなの。
この子、いつからこんなに攻撃的になったのかしら……。
最初は結構懐いてくれてたと思うんだけどなあ。
一月くらいでこんなんになっちゃったのだから、人というのは不思議だ。
「まあでも、どうしても嫌だ、最悪。マジもう全員殺して私も死にたいくらいのコンディションになってるなら、法的措置を取って皆殺しにすることは可能だけど」
「マネさんが急に恐ろしいことを言い出した!?」
「エヴァを泣かすようなやつは神が許しても俺が許さないからな」
「さっきまで『まだいじけてんのか?』とか聞いてきた人とは思えない台詞だ……」
「任せろ、それでも足りないなら俺が人生をかけて、下手人共を始末してきてやる」
「重い重い重い重い! マネさん、本当にやりそうだから嫌なんですけど……」
「やる訳ないだろ……」
冗談だよ、冗談。とも笑ったが、明らかに信じてない目をするエヴァだった。
失礼な奴め。
「でも、法的措置を取れるのは事実だ。どうする?」
「……ううん、そこまでしなくても、大丈夫です」
「本当か? 俺に言いづらかったら、後で斑雪とか、香耶さんに言うってのも有りだけど」
「大丈夫です、本当に。……ていうか、マネさんのそういう、微妙にうちを信用してないところ、あんま好きじゃないんですけど。分かってないみたいだから言いますけど、マネさんになら、うち結構何でも言えますからね? 好き放題言っても軽く許されるのが、マネさんくらいってだけかもしれませんけど」
「それはそれでどうなのすぎるな……」
かなり反応に困る立ち位置に置かれている俺だった。
本当に何を言っても許されるやつ扱いされている……。
大人の威厳だけが行方不明だった。
こいつ、俺を明らかに友人ポジションに置いていやがる。
「そういうところですよね、マネさんって。信頼って言葉は良く口にしますけど、口にするほど、信頼してくれてないってゆーか……」
「え? そ、そうか? かなり信頼してる方だと思うんだけど……」
「それはちょっと自己評価が高すぎますね……何て言うか、マネさんは他人からの好意への信頼が、とっても低いんですよ。分かります?」
「いや全然分かんないけど……」
これでも、二十代半ばまで生きてきた人間である。
他人から向けられる感情の善し悪しに、鈍感なままではない……はずだ。
「鈍感って言うか、敢えて見えてない振りをし続けた結果、本当に見なくなってるって感じっていうか。だって、ほら。うちは結構マネさんのこと、本気で好きですけど、そう言われても信じてくれはしないでしょう?」
「まあ、随分と嬉しいことを言ってくれるなとは思うけれど……」
流石に素直に信じられるほど、俺も真っ直ぐな人間ではない。現役女子高生の──しかもアイドルに好かれているなんて、夢でも信じられないくらいだ。
お世辞が上手いなあ……と思いつつも、上機嫌になっちゃうくらいである。いや上機嫌にはなるのかよ。
「だから、そういうところですよ。その癖、自分は信頼してるからって押し付けた上で、他人には好きにさせるし。そういう、ナチュラルに人を試してるみたいな、奇妙なチグハグさが、うちはたま~に怖いなって思いますよ」
「……あれ? もしかして今の、誉め言葉に見せかけた、ただの俺の悪口だった?」
「最初っから直球の悪口ですっ! もうっ」
「いやそれはそれで普通に傷つく言い分なんだけど……」
しかし、まあ、そんなことを思われていたのか、とは思う。
いや、いいや。
あるいはそれは、エヴァだけでは、ないのかもしれないのだが。
うーちゃんは、どう思っていたのだろうか。
斑雪はどう思っているのだろうか。
自然とそういう思考に繋がって、小さくため息が出た。
そうすれば、不意にエヴァがキラッと目を輝かせる。
「今、他の女の子の考えましたね? あーあ、これだからマネさんはっ。浮気者ですねーっ。ほらほら、話してくれても良いんですよっ!?」
「その台詞、そんな活き活きと言うことあるんだ……何? 何でそんなにテンション高いんだよ」
「他人のコイバナはうちの栄養源ですからっ」
「初耳だし、別に恋バナなんかじゃ──」
ない。と言おうとして、別にそうでもないのか、とは思う。
一応ながら、恋愛関係の話ではあった。
ただ、まあ。
「ガキにはちょっと早い、五年後に出直せ」
「五年後とかマネさん、刺されて死んでるかもじゃないですか……」
「おい、五年後の俺をシレッと殺すな! しかも大分不名誉な死に方だし!」
30代も元気にやっていく予定だから、一応は! と言えば、小さく笑うエヴァだった。
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