第三十二話 壁

この壁に耳をつけあなたが愛人と愛を交わす声や息遣いを聞いていた時のことが懐かしいわ。

最初は聞きたくもなかったけどだんだん興味を示し始め最後の方はそれを聞きながら私も壁越しに果てていた。

あなたに愛し合ってる時以上に気持ちよかった。

なんて悪趣味なのだろう。

そうさせたのはあなたたちよ。



※※※

早々と引越しの準備をする私たちはダンボールだらけの部屋、大きくてどうしようか悩んだソファーの上でセックスを愉しむ。寝室の部屋の隣の壁、そう私がシバと湊音の愛し合う声を聞くために耳をつけていたあの壁に私は手をつける。

ソファーは軋む。ここでもたくさん愛し合った。

シバは知らないよね、湊音と私がここでしたこと。



……多分このソファー。


捨てるわ。



もう壁づたいに聞くシバの呻めき声よりも直に聞く私は愛情を注ぐ声の方が断然良い。


壁はひんやり冷たい。


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