シバ

第二十七話 切る

ここまで短くしたのは久しぶりか。

20年以上ぶりだな。

少しだけでも良かったし、また伸びても生まれつきの癖毛がグルンとなってしまうだろうがここまで刈り上げたら大丈夫だろう、しばらくは。

ついでに髭も綺麗に剃ってもらった。

ここまでバッサリできるのなら……まだ切れるものはあるかもしれない。


※※※


「ありがとうございます、シバさん。すごくお似合いですよ」


美容師の來が首周りをほぐしてくれた。いつもは李仁の友人である大輝に切ってもらっていたががっつり刈り上げて欲しいと言ったら來を紹介された。


彼はフリーで美容師をやっているらしい。以前はジュリが彼の美容院の内装のデザインを手掛けていたらしい。


ひょろっとして最近の若い奴って感じもしたが、かつては人気モデルの婚約者だった男だ。こいつも同性愛者。やっぱ李仁やジュリの知り合いってなるとそういうことだろうな。


まぁ今では違和感もない。


キレイに丁寧に刈り上げてくれて技術は大輝とは変わらないほどである。


「俺はどんな髪型でも似合うさ」


っていうものの久しぶり過ぎるくらいだ、こんな短髪は。髭もツルツルにしっかりやっちまったし。


「また同じ長さにしたい場合はどこでも出張しますんで」


「おう、たのむわ」


今日は來の部屋で切ってもらった。帰り道に近いところと言ったらここだった。


こぎれいでさっぱりしているが多分他の人も住んでるのだろう。男で。


高級品が多い。フリーで美容師と言ってもこんな若い奴が持てるようなものではない。きっとパトロンがいるんだろう。大輝の元弟子とかいうが大輝もそんなものを出せるようなものでもないし、資産家の家にでも転がり込んだのだろうか。そうでもないとフリーでこんないい家に住めるわけがない。トイレもきれいに掃除してあるし。


ふと聞いてみたらやはり元婚約者との家だったが彼とは別れてこの部屋を貰ったそうだ。たまにここに得意先の客を呼んで髪を切るそうだがほとんどは出先でやるそうだ。


だからのこの部屋は毎日クリーンサービスの人が出入りして常にきれいにしているのだとのこと。確かにあの綺麗さは完璧だ。プロの技だ。


パトロンがやるわけない。そのパトロンももちろん男というのも芳香剤というよりアロマが女性よりも男性の方が好むもの。


はぁ、はじめて他人の家に来るとそこまで読み取ろうとする俺ってさ。なんなんだよ。


「こんにちは」


ほらやっぱり、と顔を覗かせてきた小柄の男。服もブランドものである。來の顔が少し変わった。


「あ、僕の同居人です。李仁さんともお知り合いですよ」


「初めまして。宇津々分二と申します。大輝さんからは聞いています」


俺も立ち上がって会釈する。來との距離感も申し分ない。同居人、そしてそういう関係だ。


「元刑事さんって聞いてたからやっぱり体格違うなぁ。がっしりしてる。來と背丈一緒だけど……やっぱもう少し來も鍛えないと」


「そうだよねぇ、って分二だって……」


客の前でいちゃつくなって。


あ、そろそろ帰らなきゃな。


「ここまでさっぱりしたから気分転換できそうだな」


「……大変そうですけど、頑張って下さい」


と敬礼される。キュートな奴だ。湊音みたいな感じもする。きっとこいつはネコだな。でも俺にはあまり興味ないか。タイプじゃないだろう。彼の元婚約者のモデル、そして今横にいる男ともタイプは違う。


俺は二人に見送られて部屋を出た。


このまま家に戻るか。それとも先にアイツに電話するか。來を見てたら思い出しちまった。


でもあいつに先に電話したら……と考えると後にしようって思った。


俺は切ってもらったというよりも刈り上げられた髪を触って歩く、がこんな冬空の下の元……さみぃ。

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