ジュリ

第十七話 阿吽の呼吸

「こっちとって」

「ほい」

「次はそっち」

「おう」

だんだんシバは手慣れてきた。

随分前の彼を知ってる女たちがシバが台所に立っているところを見たら驚くだろう。

出来上がりはTHE男飯。

まぁわたしも男だけど彼の豪快さは本当に今までの男の中で一番好き。

だからこそ彼のことを好きなのかもしれない。


※※※


とか思いながらもシバの料理したあとは具材が散らばるし皮とか生ゴミぐちゃぐちゃだし片付け大変なのよね。

まぁまだやってくれるだけマシと思わなきゃ。わたしもここまでやらされるようになったのもすごいわ。と、褒めておこう。自分を。


「んめーっ、にんにくマシマシ!」

と、もうすでに立ち食いで食べているシバ。にんにくチャーハン、ごろごろのお手製チャーシューと野菜たっぷり。

前の奥さんはあまり料理しなかったみたいだし、過去の彼女さんたちもそこまでガッツリ作ってなかったみたいだし、胃袋をがっちり掴んでさらに作らせる。


味は濃いめだけどこうやって互いに分担してやれば不平不満も少なくなるはず。


料理は……李仁の方が断然上手だったけど私だって負けてないんだから。一緒に用意しておいたわかめスープもどうぞ、って出すとシバはニコッと笑って口からチャーハンこぼしたところがなんともかわいい。って44歳の男にかわいいだなんて。


でも私はわかっている。シバはなんとなく。

いつものようにこのように過ごしていてもなんとなくここ数日、空気に間になにかちょっと変な感じがする。

もちろんその原因は私なんだけど。


ほんの出来心で李仁とセックスしちゃって。ほんの出来心って言うと軽いけどさ。だってさ。20代のころから一緒にゲイバーやゲイダンサーで夜通し働いていてあこがれの存在だった。

付き合いたかったけど李仁も私も男遊び激しかったし仕事もしてたし、途中で私も親の学校運営に回ったりして一緒になることはかなわなかったのに。

気づけば二人パートナーで来ちゃって。もうないかしらって感情に蓋をしていた。一緒に仕事をしてるあいだも、互いのパートナー連れてホームパーティして。そんな時でもちらっとは気になってたけど。


だけどやっぱりだめだ。シバがいるのに。馬鹿なことしちゃって。自分だって理性を抑えられたのに。


車の中だったけどあんなにたくさんキスしてすぐ互いの位置も役割もわかって混ざり合えたのなら早く、もっと早く結ばれたかった。


早く結ばれていたらシバを李仁のパートナーを愛人として公認するなんてことなかったのに。

やっぱりおかしいよ、今の関係が。


互いのパートナーを差し出して私たちまでつながってしまったらおかしくなってしまうじゃない。それに気づいた時にはもう遅かった。私たちが果てた後だった。


だから私はその日のうちに李仁にはもう今日のことはなかったことにしてってメールしたけどひどいよねそんな言い方。

送ったことを後悔しながらもそのあとも普通に仕事……ってできるわけなよね。なんだかぎこちない、でも互いに仕事だからとやりこなしたけどね。

何かを感じ取ったシバの嫉妬した無数の首元のキスマーク……。


とくに李仁からシバにばれたのかと聞かれはしなかったけどね。


「ジュリ、今度はこの汁作り方教えて」

うん、と言いそうにだnたけど。もし作り方を覚えてしまったら一人でも生活できちゃうよね。……。


離れちゃわないかな。私から。

「汁、だなんて雑な言い方。いろいろ種類あるんだから」

「おう……一つずつ教えてくれよな」


と最後までシバはすすった。


やっぱりシバのこういう風に豪勢に胃の中に入れる男、好きだ。彼を話してはいけない。これ以上湊音に渡してはいけない。


……。


「どした?」

私は机の下でシバと足を絡めた。


「……なんでもないよ」

って言うとシバも絡めてくれた。

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