第十五話 自己PR
「もぉ、こんなに首筋にキスマークつけて」
次の日の朝ジュリが洗面台の鏡の前で首筋を見ていた。
白い肌、透き通る肌にたくさん俺の痕を付けた。
なぜなんだろうか、こんな気分になったのは。
今日はジュリが李仁と仕事をするそうだ。
首元にスカーフを巻いたりコンシーラー塗ったり。
なんで隠そうとする?
※※※
今日俺は仕事である。
湊音と出会った高校の剣道部での週一回の指導。もう10年近くになる。
小学生、高校生、警察官の卵、社会人と教えているけどやっぱ高校生がやりやすい。
レベルは様々だがどんどん成長の過程が分かりやすいのはここの部員たちだ。
「シバ先生、今日もお疲れ様っす」
「うい」
今の顧問は当時俺と湊音が教えていた部員の宮野だ。ちなみに彼の兄もここのOBかつ俺の警察時代の部下の一人だ。
「なんか今日すっごいいつもよりも力が入ってましたけどプライベートで何かありましたか?」
いつも通りにしていたようだが周りはどうやらわかるのか? でも案外特に変わりはないはずだが。
「特に何もないよ、いつも通り」
「あのジュリさんに尻敷かれているだなんて、狂犬のシバが」
「るっせぇわ」
「本当美人ですからねぇ。こないだもジュリさんが差入れに来て下さったときに男子部員たちが鼻の下すっごい伸ばしてた。まだ男性だって教えてないけどさ」
「え、まだ言ってなかったの?」
「言う機会なくって」
ジュリはあんなイモな高校生たちも引き付けてしまうのか。ってなに敏感になっているんだろうか。昨日の一件からなんか。
それにまだ李仁とジュリがやったとか確証はないし。何嫉妬やヤキモチ妬いてるんだ、俺らしくない。
「頭かいてる、なんかあったすか」
「なんもない」
「うっそだぁー」
こいつとは会った頃はめっちゃ敵対視しててよく張り合ったもんだが今では上の兄の方と同様馴れ馴れしく話しかけてくるようになった。やはり兄弟か。
兄の方は特殊機動隊に入ってしまってどうなったのかその後は分からんが元気にしてるようだ。結婚はしていないとは聞いた。
「シバさん、首の横にキスマークらしいものが……」
うげ、まじか。ジュリも……。宮野がにやにや笑っている。
「嘘ですよ、ラブラブだなぁ」
「くそっ、だましやがって」
「すいませんー」
ジュリはキスマークを付けない。自分が付けられたくないからとか言っていたが。
昨日はこれでもかという位、俺の制御が効かなかった。
ジュリは俺の物だ。
って。やりすぎだったか。
「あの時だってジュリさんの腰を持って横にいたから。部員たちもうらやましがってましたよ」
もう前からそうしてた……のか。恥ずかしい。
「どっちかと言えば俺は何度も言ってるけどシバさんには湊音さんって感じはしたけどね」
「そうか?」
……一緒にやってた頃はうわさになってたというか、この時から関係は持っていたのは事実だ。
あの頃は湊音とはこんなに深い関係になるとは思ってはいなかったけど10年経って李仁から湊音の相手、しかも愛人になってくれだなんて言われたもんだから。
しんどい、自分一人では湊音を支えられないって泣かれて言われた時はびっくりしたけどな。精神面で支えるだけではなかった。
湊音は俺の身体も求めてきた。別に体の関係はわるくはないっちゃーないけど。今はジュリがいるからなぁ。
って引き受ける俺も俺だよな。だからジュリもしんどいってわかってる。ジュリは大丈夫、っていうけどなぁ。
もしここでジュリが耐えられない、って俺のところから去ったら……その時はその時……なのか?
はぁ、いろんな矛盾だらけだ。
でもジュリが去ってもまだ湊音がいるし。湊音との関係を辞めてもジュリはいる……。
ひとりにならなければいい、それだけだ。
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