第十一話 転がす

 彼に抱かれているときはどんな声を出すのだろう。

 どんなふうに動くのだろう。

 どうやって触っているのだろう。

 絡み合いほどけては、もつれあう、二人のことを妄想しながら私は激しく欲情する。

 私と愛し合うよりも気持ち良いと感じていたらどうしよう。

 それすらも興奮剤の一つになる、もう麻薬のようだ。


 ※※※

 ジュリと待ち合わせして店の食材の買い付けへ。

 彼はデザイナーでもあり、いろんなショップのプロデューサーでもある。

 私の店もそのうちの一つ。彼との付き合いは実は長い。


 まだ互いに20代のころ、彼のほうが年下だけど同じゲイバーの従業員でゲイダンサーとしても切磋琢磨していた。私はジュリみたいにバリバリ女性の格好をする人間ではなかったけど常にロングヘアで色素の薄くて化粧映えし、体のラインがきれいだった彼は羨望のまなざしだった。

 後輩ながらもカクテルの作り方もセンスが良く、店の装飾も今に通ずる美しさと繊細さを尊敬していた。


 今日も大胆に綺麗な背中がばっくり開いた黒のワンピースとピンヒール。

 二人で歩いてたら普通にカップルね。でも普通通り私もジュリも女言葉だから周りはギョッとするけど私たちには慣れっこのこと。


「ドライフラワーや造花はあまり置きたくないけど最近のは、らしさがなくてね。これなんてどうかしら」

「あ、それ……窓際に置きたい」

 ジュリは微笑んだ。

「李仁とはセンスが合うから買い物楽しい」

「それは嬉しいわ。私もよ。シバとは買い物行くの?」

「雑貨屋とかインテリアはあの人……嫌じゃない? だからこうやって聞いてもウーン、とーだろーとかさ。気づけばどっかふらついてるし」

「わかるわかる」


 私も以前はシバとは身体を交わした相手だからガサツで放浪癖のあるシバの行動はわかる。


 シバはそうなると私と、ミナくんと、ジュリの3人と関係があるのか。それぞれ知ったもの同士。

 尚更興奮するのよ。


 ちなみにジュリとは関係を持ったことはない。その美しい肌にはドキドキさせられるけど。


 でも私、知ってる。


 ジュリは私のことを好きだってことを。


「なに? 李仁」

「ううん、なんでもない。そうだ、あそこに新しいカフェできたらしいけど視察しない?」

「いいねー。視察という名のオヤツタイム」

「だねー」


 でもこの関係を壊したくないからわざと気付かないふりをしている。


 私たちまで混ざり合ったら……もっとやばいことになるんだから。


 あ、ちなみに今ミナくんとシバは二人きりでシバの部屋で過ごしてる。剣道指導の打合せとか言いながらもね。


 目の前でアイスコーヒーを飲んで白いストローに少し口紅が残る。


 ジュリも家であの二人がセックスをしていることを知っているだろう。

 どんな気分で私と二人、一緒にいるのだろう。それを考えるだけでも興奮する。


「帰りにここのクロワッサン持って帰りましょう、パンピーな二人にも食べてもらってさ」

「そうね」


 ジュリの左薬指に光る指輪、ジュリの誕生日の誕生石、真っ赤なガーネットが光ってる。


 ……。


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