第八話 バカバカしい

 ジュリは口調が強めだ。

 ヒートアップすると早口でずけずけと話を詰めてくる。

 絶対この人ドSだ、と僕はドMだから気づくわけであって。

 でもシバはどちらかと言えばSに近い。じゃあシバに抱かれたドSなジュリはどうなるのだろうか。

 はぁ、愛人のパートナーの性的嗜好を妄想するなんて、バカバカしい。



 ※※※



「李仁とメール?」

 ……僕は頷いた。さっきまでシバとセックスしてたのにシバがシャワー浴びてる時に李仁とメールって……しかもセックスしたベッドの上で。

 それをシバのパートナーのジュリに見られ

 て。


「シーツとタオルもらうわ」

 僕は畳んだそれらを渡し、ジュリは受け取ってくれた。

「……こっちでコーヒー飲む?」

「あ、うん」


 ねぇ、ジュリ。君は僕のことをどう思ってるんだい。と聞いてみたいけど……なかなかできない。


 シバは聞いた方があるのだろうか。……ないだろうな。


 この家のソファーの沈み心地は最高だ。この上で二人はどう過ごすのだろう。イチャイチャしてキスしてセックスしてるのだろうか。


 ジュリを抱いているシバはどんな感じなんだろう。

「お砂糖、ミルクなしのブラックよね」

「うん、ありがとう」

「最近眠れてる?」

 ジュリもコーヒーを飲むようだ。いい匂いだ。ひきたての豆の匂い……本格派だ。僕らがセックスしている間に豆をひいてたのか?


「うーん、ちょっと夜更かししちゃう」

「最近日中忙しそうだし」

「そうだね……時間が足りないよ」

「リベンジ夜更かしって言ってね日中好きなことできなくて夜に好きなことをしてしまうって」

「そんな言葉あるのか……リベンジってほどじゃないんだけどさ」


 するとジュリが僕の右手を手に取った。急に触れられてびっくりした。

 彼の細くて長い指、赤いネイル。少しゴツゴツした関節が男だと思うが男としては細いほど。


 セーターをダボっと羽織ってるけど下は細い紐のサテンの黒キャミソールワンピ。

 言われないと女にしか見えない。シバはやっぱり見た目が女の人の方がいいのか。彼はノンケだし。


「手が冷えてる。……右手はそうでもないけどー左手……やっぱりそっちが利き手だからこってるわね」

 と揉みほぐされる。


「ぎもちいいい」

 つい声に出してしまった。ジュリの手は緩い。ちょうど良い。揉み加減もちょうど良い。


「あうっ……」

「シバも全身マッサージしてから寝るのよ」

 ……そうか、そうだ。シバと夜一緒にいられるのはジュリだけだ。

 こうしてシバはもみほぐされて……。


「右手もしてあげるね。今コーヒー飲んでるから香り邪魔にならないクリームで……」

 僕は手を振り払った。咄嗟的に。


「……あ、その。大丈夫……ありがとう」

「そう」


 するとそこにシバがパンツ一丁でやってきた。

「おー、コーヒー俺も飲む」

「アイスコーヒーにする?」

「おう」

 ジュリが立ち上がった。僕は横にあったクッションを太ももに置いた。

 そしてジュリの代わりにシバがどかっと座った。

「コーヒーはアイスだよなー」

 猫舌だもんね。そしてめっちゃ甘党。シバがすごく僕を見る。僕は目を逸らす。


「何顔を真っ赤に。それにクッションなに抱きしめてるんだ?」

「べつに、のぼせただけだ」


 いや違う、ジュリにマッサージされて体が反応して勃起したのを隠すためだ。

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