伝説の戦士の復活
はる
序章
俺は閉じた窓から下を見下ろした。門兵がちょうど入れ替わるところだ。俺はため息をついて窓を背にしてもたれた。俺のことを、みんな忘れている。ここにいることも、存在そのものも、俺は長らく忘れ去られていた。でも仕方のないことだ。俺は自分自身をみんなの前に出さなかったから。いつも内にこもって、こうやってここで、膝を抱えて座っていたんだ。
「いつまでそうやっているつもりですか」
窓からアンジェがやってきた。アンジェは俺にしか見えない魔術師だった。
「アンジェ。俺はもう遅すぎるのかも」
「そんなことないですよ。本当はみんな、あなたのことを待っています」
「本当かなぁ」
「本当ですよ」
俺はベッドに膝を抱えて座った。
「こうやってるほうが気楽でいいよ。誰にも注目されないし、何をする必要もない」
「本当に、何もしたくないのですか」
「……何かはしたいけど……でも、何をしていいかが分かんない」
「そうなのですね」
アンジェは俺の横にふわりと腰を下ろした。
「あなたがすべきは、まず皆の前に姿を現すことです。それはあなたが一番分かっていることだと思います」
「……それは、そうだけど……」
「あなた自身の感情を出すのです。感情を恐れてはいけません。感情はあなたを打ち倒す恐ろしいものではなくて、あなたの本心を教えてくれるものなのですから」
「……怖いよ……」
「いいですか? その場で出すのですよ。後から恐る恐る出すのでは遅いのです。出さなかった感情は膿のように溜まりますから、すぐに。その場で発露するのです」
「……そんな勇気ない」
「ありますよ。必ず、あなたの内側に存在します」
アンジェはしきりに励ましてくれた。俺はそれに耳を傾けているうちに、段々と自分にもできるかも、という気持ちになってきた。
「俺にもできるかな」
「できますよ」
俺は窓を開けた。
「俺はここにいる!」
多くの人が俺を振り返った
「あれはまさか……!」
「伝説の戦士、フィーリアじゃないか!?」
「長寿と書物には書かれていたが、まさか本当だったとは……」
久しぶりの外の空気は美味しかった。
「ありがとう、アンジェ」
アンジェは微笑んだ。
「あなたの復活を、皆が喜びますよ」
伝説の戦士の復活 はる @mahunna
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