第12話
「ルカ! アリス!」
医務室に戻るなり、大きな声で名前を呼ばれた。
「シリルか」
中にいたのは、この前少しだけお話しした、シリルさんだった。確か彼も、ルカさんと同じ部隊に所属していたはず。
「シリルさん、お久しぶりです。ケガとか大丈夫でしたか?」
「少しだけだから大丈夫だ。それよりアリス、魔法使えたんだな。俺めっちゃびっくりしたぞ」
あんまり記憶はないんですけどね……。
「急に使えるようになりました」
「え、そうなのか? 前兆とか、そういうのも全くなかったのか?」
「前兆……?」
例えばどんなのがあるんだろう。
「熱っぽい日が多いとか、少し頭痛があるとかそういう体調不良もそうだし、よくない夢を見るとかはなかったか?」
「あ、たまにですが、頭が痛くなることはありましたね。長引いたりしていたわけではなかったので、あまり気にしていなかったんですけど、そういうのが前兆なんですか?」
「ああ。でもアリスの場合だと、聞いている限りでは魔法を身に宿したのも、最近なのかもしれないな。俺は、熱が結構ひどかった覚えがある」
魔法を身に宿したのは最近……。すごい不思議な話だなぁ。
「いやでも俺はなんもなかったな……」
「へぇ、結構個人差あるんですね。シリルさんみたいになんもない人もいるし、ルカさんみたいに結構体調崩したりする人もいる……。それ聞いたら軽いほうでよかったなって思いました」
「まぁ、軽いに越したことはないからね。でも、今日はしっかり休んだほうがいいよ」
確かに、そういわれると疲労感がすごいかも……。
「そうだな。アリス、今日は家じゃなくて、ここに泊まったほうがいい」
「え、大丈夫なんですか? 部屋とか……」
「ああ、寮の空きはまだあったはずだ。だから今日はゆっくり休んでくれ」
「はい、ありがとうございます!」
そしてそのあと、ルカさんに寮まで送ってもらい、しっかりと睡眠をとった。もちろん、ルカさんからの誘いをどうするかも、決めてからだ。
「おはようございます、ルカさん、シリルさん」
「ああ、おはよう」
「おはよう」
食堂で二人と合流する。今日は仕事を休んでいいとカミラさんが言っていたので、お言葉に甘えることにする。
朝食のパン、スープ、サラダを好きなだけ取り、席に座る。寮の朝ごはんはバイキング形式で、バラエティも豊かだ。
「いただきます」
ご飯を食べながら、昨日の話とか、普段の軍の訓練とかの話を聞く。軍の訓練は厳しいイメージしかなかったが、二人は楽しそうだ。
「あの」
私も一つ、二人に話したいことがあった。
「昨日ルカさんが言ってた、軍に入る話のことなんですが……」
「ああ」
「お引き受けさせていただきたいなと思っています」
ルカさんは少し笑って、シリルさんは驚いた表情で私の話を聞いている。
「ルカさんは私の魔法が、治癒に長けている珍しいものだと言っていました。この能力が、軍のみなさんの役に立つなら、がんばってみたいです」
「ア、アリス、大丈夫か? 訓練は結構きつい時もあるし、何より男ばっかりだぞ?」
シリルさんは私を心配するように言った。
「はい、わかっています。ですが私には『守りたいもの』といいますか、そういうものがありますので、大丈夫です」
「そうか、決意は固そうだな。ルカ、どうするんだ?」
そういわれて、ルカさんは私のほうを見る。
「アリス。俺が軍に誘っておいて言うことではないんだが……。後悔はしないか?」
「はい」
私には、『守りたいもの』ができた。あと、好きな人となら、どんなこともがんばれる気がする。だから絶対に、諦めたりはしない。
「わかった。ありがとう。手続きはこちらのほうでやっておく。三日後から、訓練とかに参加してもらうことになると思うから、そのつもりでいてくれ」
「わかりました! これからよろしくお願いします!」
「こちらこそよろしく、アリス」
こうして私は、軍の特殊部隊に所属することになった。
三日後。あれから私はアスター家に戻り、これからの生活のためにしっかりと休養を取った。カミラさんに魔法のことと、これからのことを伝えると、応援すると言ってくれた。そして今日から、軍人としての生活が始まる。
「ルカさん! おはようございます!」
「おはよう、アリス。もう準備できてるから、乗ってくれ」
「はい!」
軍人になったとはいえ、ルカさんはこれまで通り、アスター家で暮らしていいと言ってくれた。だからこれからも、ルカさんと一緒にいることができる。
「いよいよだな、アリスの軍人としての生活は」
「そうですね……ここに来たときは、自分の未来がこうなるなんて全然思ってませんでしたが、少し楽しみです」
ルカさんに会ってから、本当に自分の生活が大きく変わった。感謝してもしきれない。
「ルカさん」
「なんだ?」
「魔法の王を倒したら、伝えたいことがあります」
ルカさんは今まで見た中で、一番の笑みを浮かべながら言った。
「俺も、アリスに言いたいことがある」
「じゃあ、がんばってドラゴンを倒しましょうね!」
「ああ」
これは私たちの、恋と戦いの物語。
赤き少女は魔法を宿す なべねこ @nabeneco0827
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