第11話
外に出ると、満天の星空が広がっていた。街灯のすぐ下にあるベンチに、ルカさんと並んで腰をかける。
「星、きれいですねぇ……」
ヨーク家のあるグロースでは、全然こういう自然が豊かっていう景色は見られないからなぁ、すごい貴重な体験だ。
「ああ、ここら辺はよく星が見えるからな。もう少し行ったところには、大きな天文台もある。今度行こうか」
「ぜひ!」
やった。ルカさんに誘われちゃったな~。
「さっき夢の中で父君と話したと言っていたが、何を話していたんだ?」
「えっと、父は魔法を使えたので、もしかしたら私にも魔法の才能があるって、直感だけど思ってたみたいです。それで、父がまだ生きていた時の私の誕生日に、『守りたいものは絶対に守れ』と言ったんです」
「いい教えだな」
「はい」
ルカさんにも褒められて、私が言ったわけではないがうれしくなる。これからも絶対に守っていきたい教えだ。
「父は普段おふざけモードが多いので、あんなにまじめなことを言うのは本当に久しぶりでした」
「あー、なんか聞いたことがあるな。ルイスさんは腕は立つが、普段は結構……遊んだりしていたと」
うう、パパっぽい。職場でもそんななんだ……。
「それじゃあ、そろそろ本題に入ってもいいか?」
あ、パパの話で忘れるところだった。危ない危ない。
「はい、お願いします」
「どこから話せばいいだろうか……。まずは魔物について話そうか」
よし、がんばってついていこう。
「魔物とは、人の形ではなく、俺たちに危害を加えようとするものだと軍の中では定義している。魔物の討伐は、魔法でしかできない。そのために、特殊部隊として俺たちがいるんだ」
「なるほど」
ここまでは大丈夫そう。
「次は……ドラゴンの王についての話か。これには伝説があるから、それからまず話そうか」
そう言って、ルカさんはその伝説を話し始めた。
二千年前。シエロ王国には代々、魔法を使える者が存在する。彼らは魔物の討伐にあたり、人々の生活を守っていた。そんな中、ひときわ大きく、強力な、ドラゴンの見た目をした魔物が、人々の前に現れ、甚大な被害をもたらした。魔法使いたちは懸命に戦ったが、手も足も出ず、全滅も近かった。しかし、赤色の目をした少女が突如として現れ、ドラゴンをたった一人で倒してしまった。人々は彼女を『英雄』と呼び、盛大にたたえ、もてなした。彼女はそれから、その命を終える間際まで、王国のために尽くしていた。人々は彼女の死後、この英雄を忘れてはならないと、各々の胸に刻んだ。
それから三百年後、再び力を蓄えたドラゴンが、人々の前に現れた。人々はそのドラゴンを、『魔物の王』と呼ぶようになった。この時の戦いでは、赤色の目をした青年が、『英雄』として活躍した。
そのまた三百年後も、そのまたさらに次の三百年後も、同じように魔物の王は現れ、赤色の目の英雄が、それを倒してきた。しかし、人々は魔物の王を倒すために、赤色の目をした英雄は必ず現れると考えてしまった。そして戦いの後も、英雄のことをたたえず、当たり前のように流してしまったため、この伝説はだんだんと人々に知られなくなってしまった。そして今では、軍の特殊部隊の者だけが、この伝説を知っている。
「こんな感じだ」
「もしかして、赤色の目をした英雄って、今回はルカさんのことなんでしょうか……?」
いや、そうだとしか考えられない。
「おそらく、間違いないと思っていた。しかしアリス、お前も赤い目をしている。そして珍しい、治癒に長けた魔法を使っていた。今回の騒動で、誰が英雄なのかというのはわからなくなった。俺も、この重圧から少し解放されるかもな」
ルカさんは少しほっとしたような、そんな顔をしていた。
「英雄というのは、名だけは豪華だが、中身は人生のルートを決められ、縛られるものだ。俺は小さい時から、英雄だと言われて育てられてきた。そのために、友人を作ることなども我慢してきた。赤色の目なんていらない、なんでこんな色なんだってずっと思ってきた」
そして、私のほうを見る。
「でも、アリスに会って、この目の良さが少しわかった気がする。アリスの目は、とても美しい。アリスとあって初めて、この目でよかったと思うことができたよ」
「でも、ルカさんの目はすごくきれいです。私はすごく好きですよ」
一目見たときから、そのきれいさにびっくりしていた。
「そうか、ありがとう」
「はいっ」
「それで、もうひとつ話したいことがあるんだが」
なんだろう。
「アリスは魔法を使えるようになった。しかも目は赤い。これを機に、軍に入ることを検討してくれないだろうか」
「え、私が軍にですか?」
ルカさんは頷いた。
「ああ。さっきも言ったが、お前の魔法は珍しい。だからこそ、魔法の王であるドラゴンを倒すのには、お前の力は必要不可欠だと俺は思う。だが、危険が伴うのはもちろんだ。だからたくさん考えて、結論を出してほしい」
「……わかりました。考えてみます」
「巻き込んで済まない、よろしく頼む」
ルカさんの役には立ちたいけど、自分にできるのか……。きっと早く決めたほうがいいから、今晩じっくり考えて決めよう。
「それじゃあ、そろそろ冷えてきたから、中に戻ろうか」
「はい、そうしましょう」
そして私たちはまた、軍の医務室に戻った。
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