第10話
「アリス」
私はあの時と同じ、あの真っ暗な部屋にまた立っていた。また昔の記憶が見えるのかと思っていたが、今回ここに立っているのは私だけではない。
「パパ」
そう、私の目の前には実父のルイス・ホワイトがいる。彼はもうすでに死んでいるはず。だからこれはきっと、夢なんだと思う。
「パパ、どうしたの?」
彼はいつもの笑顔を向ける。
「いや、我が娘がこんなにも大人になったなんて感慨深くてしょうがない……。『守りたいものができたよ』って言われた時の親の感動がわからないか……!」
「大げさだよ。それよりも、なんで私が魔法を使えるかもって思ってたの? 魔法って遺伝したりとかしないよね?」
もし遺伝するならなんとなくわかるけど、感覚的にわかるものなのかな。
「あーそこ聞いちゃうか」
パパがふざけ始めた。そんなに言いにくいことなのかな。
「いや~言いにくいんだけど、すごい直感なんだよねぇ」
「はい?」
ちょっとまって。信じられないんだけど。
「いやだから、直感だって! 根拠とかは……うん、ない」
「はぁ」
呆れたんだけど……。まぁでもこれがパパっぽいかもしれないな。
「はぁってなんだよ! 結果的にアリスが魔法を使えるようになったんだからいいじゃん……」
「たしかに。そこは感謝してるよ」
そう感謝を示すと、急にドヤ顔をして、そうだろうそうだろうと満足げな顔で頷いている。
「僕のおかげで魔法が使えるようになって、ルカくんを助けて、その仲間も救うことができた。初めて魔法を使ったとは思えないよ」
「なんで魔法の使い方……知ってたんだろ……」
「アリス。知らないみたいだから、僕が教えてあげる。この世界には、何かの物事を努力で何とかすることができる人が多い反面、才能でできてしまう人の二種類がいる。アリスが今考えている疑問の答えは、きっと後者の、『才能』だよ」
私に魔法の才能があったってこと……?
「だからアリスはきっと、これからもたくさんの人たちを、その魔法で助けていくんだろうね。大丈夫。何があっても、ライナスさんやルカくんが助けてくれるだろうね。だからアリスは、自分の思う道をまっすぐに、ただ進んでいけばいいよ」
「わかったよ、パパ。大事なことを教えてくれてありがとう」
最後に、パパはニコッと笑って言った。
「ほら、そろそろ目覚めないと、ルカくんが心配しちゃうよ。起きて起きて」
「うん」
そして、私の意識は闇に沈む。
「……ス、……アリス」
う~ん、もうちょい寝たいかも……。まだ遅れる時間じゃないから……。
「アリス!」
「うわぁ!」
大きな声に目を開けると、ルカさんが心配そうにこちらをのぞき込んでいる。何という美形。これを朝から拝めるなんて最高です神さまありがとう。
「アリス、何をぶつぶつ言っているんだ? まだ少し体調がすぐれないか?」
「へっ?」
やばい。声出ちゃってた。そういえばここってどこだろ。さっきまで私、何してたんだっけ……?
「あれ、ここって……あ、ケガしてた人たちってどうなりました⁉」
思い出した。確か食堂でカミラさんと話してたらケガ人が来たって言われて手伝って……あれ、この後ってどうなったんだっけ。
「ここは軍の医務室だ。安心しろ、お前のおかげで俺の仲間はみんな回復した」
「私?」
「ああ。アリスが魔法を使ってみんな治してくれたんだが……もしかして覚えてないのか?」
「いえ、確かに魔法を使ったということはわかるんです。さっき寝てた時にも、夢で父と話していろいろ教えてもらいましたし。ですがやっぱり、自分が魔法を使えるという実感がなくて」
うん、やっぱりしっくりこないなぁ。こんな私が魔法を使う? 不思議なこともあるんだなぁ。
「アリス」
ルカさんが改まって私の名前を呼ぶ。
「今回は俺や仲間たちを助けてくれて本当にありがとう」
「いえ! お役に立てたならよかったです」
なにせ記憶がおぼろげなので……。
「気になったんだが、なんで魔法が使えるようになったのかわかるか?」
あ、さっきパパと話してたからわかるやつだ。
「さっき父と夢の中で話していたんですけど、『才能』って言ってました」
ルカさんは少し笑っていた。
「才能か。魔法に目覚める者は少ないからな。しかもアリスは治癒にたけているように思えた。磨けばもっとよくなるぞ」
「そうなんですね……ちょっと考えておこうかなぁ」
磨くとなるとルカさんみたいに軍に入ることになるのかな。厳しかったらいやだなぁ。でも、ルカさんもいるならきつくても頑張れるかもしれない。前向きに検討しておこう。
「あ、そういえばなんですけど、今回の魔物は強かったんですか?」
「ああ。これは軍の極秘情報だから、あまり口外しないでほしいんだが、三百年に一度魔物の王として現れるドラゴンがいるんだ。そいつが五十年早く目覚めてしまった。そのせいで、ドラゴンの魔力にあおられた低級の魔物たちが強くなっていたんだ」
三百年に一度目覚めるドラゴン? ドラゴンって存在したんだ。頭が混乱してきたな。
「この後の話は、少し外に出て話そうか」
たぶんルカさんは、重い話になるだろうから場所を変えようと言ったのだと思う。そして彼の表情には、私を気遣うような色が見え、少し私はうれしかった。彼が、私のことを見てくれている気がして。この気持ちに名前はまだないけど、きっとこの名前は『恋』なんだと思う。この気持ちがばれないよう、がんばって表情を取り繕いながら、私はルカさんについていき、外に出た。
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