第4話 ギャルの家へ行く
「相原くーん! 遅くなってごめーん!」
「……西条さん。行こうか」
「え、相原くん、歩くの早いよ!」
学園の裏門からこっそり一緒に帰ることになっていたのに、西条さんはめちゃくちゃ笑顔で走ってきた。
裏門は体育館の近くにある。部活をやっている奴らたまに外で休憩しているくらいだ。
たださえ目立っている西条さんが、男子生徒と待ち合わせして下校する――注目されないわけにはいかない。
(人に見られている……もう少し自分の影響力を考えてほしい)
俺はあえて西条さんを見ないで、早歩きで駅まで向かう。
学園の正門から出れば、駅まで歩いて10分くらい。
広い一本道をまっすぐ進む。普通の生徒はこれで駅まで向かう。下校の正規ルートだ。
正規ルートで駅に向かえば、駅の西口にたどり着く。
他の生徒に知られないために、遠回りしながら駅を目指すつもりだった。
生徒がたくさんいる駅の西口を避けて、東口から電車に乗って俺の家に行く予定のはず……
「相原くん待ってよお! もっとゆっくり行こ!」
「……」
学園の裏門から少し離れたところで、俺は歩く速度を落とした。
住宅街の細い道に入る。ここなら大丈夫だ。
「はあはあ……やっと止まってくれた!」
西条さんは小動物みたいにぴょこぴょこついてきた。
首を傾けて、不思議そうな顔で俺を見つめている。
長い髪が右にさらりと落ちた。
(もしかして、本当に気づいていないのかも……?)
「えっと、あんまり目立つと西条さんが……」
「あっ……!」
(やっと気づいてくれたみたいだ)
「……って、何?」
にっこりと西条さんがかわいく笑った。
困ったら笑ってごまかす癖があるみたい。
割とドジっ子というか……今まで知らなかった側面だ。
(クラスだとしっかり者のイメージだったけど……)
「ほら、Vのことかいろいろあるし……」
「……そっか! だから早く歩いていたんだね!」
ペコペコ頭を下げる西条さん。
西条さんの顔が、すごく真剣になっている。
やらかしちゃった……みたいな顔。
これもクラスだと見たことがない。
「もう大丈夫だよ。この道なら生徒に見られないから」
「ありがとう……あたしのこと、いろいろ考えてくれて」
ふっと西条さんが俺に笑いかける。
髪をかき上げて、俺の前を歩き出した。
「相原くんって、やっぱり頼りになる~~」
振り返って、くるりと一回転する。
(なんだか元気だな……)
「相原くんにコーチしてもらったらあたし、すっごく強くなれるんだろうなあ!」
めちゃくちゃ期待されている……
誰かにゲームを教えるなんてやったことない。まして女子とゲームするのは初めてだ。
(見られちゃったから、学園で噂になるかもなあ……)
住宅街を抜けると、駅の東口に着いた。
東口の周りにはいろんな会社のオフィスがあって、帰宅途中のサラリーマンが多い。
俺がまっすぐ改札に向かおうとすると、
「相原くん! コンビニ行こ!」
西条さんは改札の隣にあるコンビニを指さした。
「あ、コンビニ寄りたいんだ。いいよ」
(今日は暑いし、飲み物でも買いたいのかな?)
西条さんはコンビニへ入ると、最短距離でお菓子コーナーへ向かう。
「ゲームするんだったら、お菓子いっぱい買っておかないと!」
「……そういうことね」
「今日は相原くんが先生やってくれるから、相原くんの好きなお菓子買ってあげる」
「好きなお菓子か……」
――好きなお菓子は何か?
改めて他人からそう聞かれると、自分が何が好きなのかわからない。
(無難にポテチを選ぼうかな……でも西条さんも食べるなら甘いお菓子のほうがいいかも)
俺がイチゴ味のチョコを指さすと、
「え? 相原くんそれがいいの? なんだか女の子みたい」
「そうかな? 西条さんはチョコ嫌い?」
「チョコ嫌いじゃないんだけど、あたしはね……あれが大好き!」
西条さんが指さしたのは、ハバネロムーチョ。
めちゃくちゃ辛いことで有名なポテチだ。
一度、小学生の時に食ったことがあったが、辛すぎて涙が出た。
「ハバネロムーチョ……好きなんだ」
「あれがないとゲームできないんだよね~~! ハバネロムーチョ片手に寝ながらゲームするのが最高!」
(普段のイメージと全然違うな……)
西条さんがパーカー姿でベッドの上でゴロゴロしながらハバネロムーチョをバリバリ食べて、ゲームをしているところを無理やり想像しようとするが、
(全然想像できない……!)
「ごめん……ハバネロムーチョ、嫌い?」
「嫌いじゃないよ。ハバネロムーチョにしよう」
「やったあ~~! 嬉しい!」
子どもみたいにお菓子コーナーではしゃぐ西条さん。
いろいろ予定通りじゃないけど、楽しくなりそうでよかった。
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