第2話 推しのVtuberから電話がきた?

「今日はいろいろあった……」


 夜、俺は部屋でスマフォミをやっていた。

 今日は配信はしなくて、トレーニングモードで、ひたすらコンボの練習。

 いつもなら絶対にミスらないところで、なぜかミスしてしまう。


(メッセージ来ないな)

 

 時刻は午後十時。

 夜にメッセージすると言っていたから、来てもおかしくないはずだ。


(まあ来ても来なくても、どっちでもいいけど)


 理由はよくわからないけど、今まで俺と話したことないから、たまたま気になって話しかけてきたのかも。

 最初のホームルームで「目標は友達100人作ることです!」って、みんなの前で言ってたし。


(そんな人マジでいるのかって、びっくりした……)


 普通なら恥ずかしくて言えないというか、白けちゃうようなことでも、西条さんが言うと不思議とみんな受け入れてしまう。

 西条さんほどコミュ力がある人なら、意味もなくクラスメイトの連絡先をゲットする……なんてこともあり得ないことじゃない。

 そこそこのコミュ力しかない俺には理解できないが。


 ——ピコン!


 俺のスマホが鳴った。

 MINEの通知が来ている。


「え……これって……?」


 俺は思わずスマホに手から落としそうなった。

 だってメッセージの送り主は——


「兎夜めろぴ……!」 


 メッセージを送ってきたのは、推しのVtuberだった。


「これは……何かの間違いだよな」


 推しのVtuber、兎夜めろぴが俺にメッセージが来るなんてあり得ない。

 そもそもめろぴが、俺の連絡先を知っているはずないからだ。

 俺はもう一度MINEの画面を開いて、メッセージの送り主を見てみる。


「兎夜めろぴって書いてある……」

 

 アカウント名のところに、はっきりと「兎夜めろぴ」と表示されている。

 アイコンもめろぴのものだ。

 兎をモチーフにもふもふした耳としっぽ、背中には小さな天使の羽。

 設定は、天界から舞い降りてきた兎の天使。人間を幸せにするために下界にやって来た。17歳。ニンジンと可愛いもの、何よりゲームが大好き。


「遅くなってごめん! 今、少し電話できるかな?」


「電話したいのか……」


(……悪質なイタズラ?)


 だが俺はMINEのアカウントをネット上に晒していない。リアルの知り合いしかわからないはず。

 たぶん偶然だ。西条さんもきっとめろぴが好きなんだ。


(西条さんもV好きなんでちょっと意外だ……)

 

 他にこんな時間にメッセージを送ってくる奴も思い当たらない。

 それにVtuberが好きな知り合いもいないし……


 ——プルルルル!


「本当にかかってきた……」


 案外、俺は冷静にスマホを手に取る。

 

(……仕方ない。試しに出てみるか。イタズラならすぐ切ってしまえばいい)


「はい」


 あえてこちらから名乗らず、相手の出方を伺う。

 イタズラ電話なら、相手はずっと黙っているだろう。


「こんな夜にごめんね。相原くんに相談があって」


(この声は——西条さんだ)


「……」


 俺は驚きのあまり、黙ってしまう。


「相原くん……? 聞こえてる?」


(これは、言ったほうがいいのか?)


 考えすぎなのかもしれない。

 西条さんはVのめろぴが好きだから、MINEのアイコンもめろぴと同じにしているだけだ。

 めろぴは今、伸びてきているVだ。西条さんも推しているのかも。

 まさか西条さんがめろぴであるわけ……


「……聞こえてる。西条さんのアイコンって、兎夜めろぴなんだね」

「えっ……あ! 間違えてこっちのアカウントでメッセージしちゃった」


 間違えて・こっちのアカウント・メッセージ――西条さんがめろぴのアカウントで俺にメッセージを送ってきたということになる……のか?

 西条さんがVの兎夜めろぴで、俺にメッセージを送る時にうっかり兎夜めろぴの方で送ってきた。

 ……いや、いやいやいや、信じられない。まさかそんなこと、あり得ない。

 俺の推しのVが、西条さんなんて……嘘だろ?


 うん。もう、これは……聞くしかない。

 いや、でも、もし違っていたらすげえ変な奴だと思われるし……

 ここは……いったいどうすれば??


「……」


 俺は脳内で葛藤かっとうしていた。

 もしも西条さんが兎夜めろぴ俺の推しだったとしても、あえて何も聞かずにスルーするのが得策かもしれない。

 いやいや、冷静に考えろ。まさか西条さんがめろぴなわけないじゃないか。そんな出来の悪いラブコメ漫画みたいなことがあるわけない。

 あくまで仲良くなるきっかけとして、めろぴのことを話題にすればいい。

 お互いにめろぴを推していれば、西条さんと普通に友達になれるかも……?


 俺は思い切って、冗談のつもりで聞いてみることにした。

 重くなりすぎないように、できるだけ軽いノリで。


「はは。もしかして西条さんって、めろぴだったりする?」


 西条さんが返してくる答えは、こうに違いない――めろぴはあたしの推しなの!

 しかし、西条さんの答えは――

 

「あ……うん。ごめん。。バレちゃったね……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る