人気Vtuberが底辺ゲーム配信者の俺の唯一の視聴者だった件。

水間ノボル🐳@書籍化決定!

第1話 クラスのギャルが俺に相談があるらしい

「兎夜めろぴ、最近すげえ伸びてるじゃん」

「だよな! めちゃくちゃかわいいし!」

 

 朝、授業が始まる前の時間。

 クラスの陽キャたちが盛り上がっていた。

 ……なぜか俺の席の前で。

 

(あいつらも、めろぴの配信見てるのかよ)

 

 昨日、夜遅くまでゲーム配信をやっていたから、俺は机に突っ伏して寝ていた。

 机の前で話されて、嫌でも会話が耳に入ってくる。


 兎夜めろぴ(うさやめろぴ)――1ヶ月前に出てきた個人勢のVだ。

 チャンネル登録者数は3万人だが、女性Vにしてはゲーム配信が上手い。最近、急速に伸びていた。

 俺も密かにチャンネル登録している。


「スマファミ上手いよなーめろぴって」

「そうか? あれぐらい俺でもできるわ」


(あいつら、何もわかってないな)


 スマファミは、大人気の格ゲーだ。すでに5シリーズも続いている。

 体力制ではなくて、相手のキャラをステージ外に吹っ飛ばせば勝ちのゲーム。

 一見、簡単そうなゲームだが……これが奥が深い。

 コンボを使いこなし、立ち回りを計算し、対戦相手の先を読む。安定して勝ち続けるのは難しい。


 めろぴはコンボ精度も高いし、立ち回りも洗練されている。キャラの特性も理解している。大会の上位勢にも引けを取らない。


「西条さんは今日もかわいいな。見てるだけでめちゃくちゃ尊い……手の届かないVtuberより、西条さんだ」

「いや、西条さんも手が届くわけじゃないけどな」

「それ言うなよ」


 話題はクラスのアイドル、西条真白(にしじょうましろ)さんのことに移った。

 今、教室の真ん中で、陽キャたちに取り囲まれているギャルぽっい女の子。

 一部から「ましろん様」と呼ばれて、騒がれている。本人は気にしていないみたいだけど。

 肩まである茶色の巻き髪に、大きな瞳。

 大人っぽい雰囲気で、いつもクラスのまとめ役だ。


「西条さんって、彼氏いるのかな?」

「誰とも付き合わない主義らしい」


 西条さんは「学園で一番かわいい女子」と言われている。噂だと入学式の日に、イケメンの先輩から告白されたらしい。

 だが、丁重にお断りしたそうだ。


「……おい。西条さんがこっち来るぞ」

「やばい。今の話、聞こえてたのか……」


(え? 西条さんがこっちに……?)


 机に突っ伏して寝ていた俺は、顔を上げた。


「……に、西条さん。おはよう」

「ははは……西条さん、今日もいい天気だね……」


 前にいる二人が西条さんに挨拶した。だが西条さんは二人を無視して、俺の前に立った。


(俺に何の用があるんだ……?)


「おはよう。相原くん。ちょっと話があるんだけど」

「え……何かな?」


 西条さんが恥ずかしそうに身体をよじる。

 俺は今まで西条さんとからむ機会がなかった。

 そんな西条さんに「話がある」と言われて身構えてしまう。

 

「相原と西条さんが話してるよ……」

「珍しい組み合わせだな」


 無視された二人が、俺を見ている。

 入学してから目立っていなかった俺のところに、西条さんがやって来た。

 周囲の注目が集まるのも、無理ない。

 

「……えーとね、相原くんに相談があるんだけど」

「どんな相談?」

「ごめん。ここじゃ言いづらくて……MINE(マイン)交換してもいいかな?」


 西条さんは周囲を気にしながら、スカートのポケットからスマホを取り出した。

 メッセージアプリ、MINEの画面を開く。


(あっ……これは?)


 スマホカバーにスマファミのキャラ、クービィのイラストがある。

 クービィはピンクの丸い形をした、かわいらしいキャラだ。

 その見た目に反して、ランクマッチ上位勢が使う強キャラでもある。

 圧倒的な強さから「ピンクの悪魔」と呼ばれていた。


(西条さん、クービィ好きなのかな……?)


 俺もクービィが好きだ。

 ふいに共通点を発見して、俺が勝手にほっこりしていたら、


「もしかして、相原くんもクービィ好きなの?」


 俺の視線に気づいた西条さんが、笑顔で聞いてくる。


「好きだけど」

「そっか! あたしも好きなんだぁ。同じクービィ推しなら、友達にならなくちゃね!」


 西条さんは机に手をついて、身を乗り出してきた。

 きれいな顔が、俺の目の前に。

 制服のブラウスから、西条さんの豊かな胸がちらちら見える。


(目がそっちに吸い寄せられてしまうな……)


「OKでいいよね。あたしがやってあげる」


(どうしてOKになるんだ?)


「あっ!」


 気がついたら、西条さんにスマホを取り上げられた。

 MINEの画面を開いて、バーコードを読み取る。

 スマホを取り戻すことは簡単にできるが、俺に拒否権をなかった。

 もしも俺がMINE交換を拒否したら、俺は西条さんのファンに暗殺される。

 

(まあいいか……西条さんのこと嫌いじゃないし)


 西条さんは他人との距離が近いというか、誰とでも仲良くなれる人だ。悪意があるわけじゃない。

 本当かどうかわからないけど、西条さんは学園のほぼ全員と連絡先を交換してるらしい。さすがに嘘だと思うけど。

 今まで接点のなかった俺に、どんな相談か気になる。


「ありがと! 夜、メッセージするね!」


 ぱっと俺に明るく笑いかけて、西条さんは陽キャたちのところへ戻って行った。

 

「おい、相原。西条さんと何話してたんだよ?」

「俺らにも教えろよ!」


 さっきの陽キャ二人が、俺に話しかけてくる。


(なんかめんどくさいことになったな……) 


「別に……ただMINEを交換しただけだよ」


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