第42話 告白(後編)

少年は、長の話を聞くと同時に別からも声が聞こえ、当時の状況を垣間見ていた。

それは恐らく、長の心の内部に入り込んだでいる様だった。


話が完全一致だった事は自負していたが

よりリアルな状況を長の話以上に理解していた。




少年が言葉を発する前に

美しい女性との話の続きを長が始めた。

そこから先は、長の言葉だけに耳を傾けた。




若者は愛する女性から耳元で沢山の話を聞いた



全てを覚えてはいられなかった



この村の山頂には不思議な力を手にする事が出来る場所が有る

かつてから、狐達はその力で村に降り、人を愛しそして、終わる定め

自然への弊害を引き起こした罪を償う定め



でも、それでも良い

人に、愛する人に交われた私の幸せを



「貴方とこの村の未来に託したい」




それを聞いていた少年は涙眼の中に

再び炎を灯した刹那だった。




少年の中の今までの



幸せ

笑い

哀愁

怒り

苦しみ

感動



全てが織り混ざり、合わさり

増幅させた。



二人が座る長の家の縁側から見える山は静かだった。

しかし、遠くの山で何か重い音がした気がした事を迅速に、長だけが感じた。






若者は別の日に山麓に行った。

彼女が居ない場所で、何も変わらぬ場所に一人で立っていた。

ふと、足元を見ると


小さな石が置いてあった。


畑に石など無い筈だったので、若者は何となく家に持ち帰った。



その後も若者は女性を想い生きた

ずっとずっと

そして


長は今も女性を愛していた。





当時、唯一詳しい村の女性に相談した事もあった。



少年の祖母だった。



若者は祖母の前で大粒の涙を流した

祖母は暖かく話を聞いて優しく応えてくれた



そして言った


「貴方と彼女で、この村を作って行ってほしい」



若者はその言葉を聞いた刹那から再び情熱を燃やした。

彼女の願いは自分の夢だと、改めて自負した。


祖母は最後に、彼が拾った石を大切に祀る様に言った。




長は、過去の祭りの際のスイの容姿を見た時から察していた。

酔って軽はずみに放ったスイの言葉も、何故か嬉しかった。



自分も、あの人と祭りに来ていたら



そんな想像が湧いていたし、少年とスイに自分とあの人の姿を投影していた。

少年の祖母しか知らない、長の大切な過去の秘密だった。




少年は長が発する全ての言葉、そして考えに感服した。

長が愛した女性が、スイと似ている事にも納得した。

長は、若い頃からしっかり自分を持ち、夢を確立していた人だった事にも

尊敬を覚えたが、そんな長が唯一愛した女性が自分と同じ狐だった事実が嬉しかった。


全てを打ち明けてくれた感謝もあったが、少年は自分の話も聞いて欲しかった。



自分の今までの経緯を、前回家族に話した内容と同じ様に伝えた。

否、あの時よりも少年は感情的になって自分を抑え切れずに無我夢中で話した。




お互いの告白だった。




やはり一刻程時間が過ぎた。

長はずっと聞いていた。




「さて、困った」




長がまた同じ言葉を発した。



少年は何故か面白くて笑った。

長も笑う少年を見て笑った。



涙眼で笑う少年

それを見て優しく笑う長



少年は次の刹那、長に抱きついた。

長は少し驚いたが、少年が声を出して大泣きしていた事も察していたので

優しく抱き返した。


ずっと一人で闇雲に進んで来た、少年の甘えだった。

唯一、自分が甘えられる人だと思えた瞬間に少年は自分でも思いもよらぬ行動を取っていた。




少年はその後、村に飢饉が迫る前に祝言を上げたい事を伝えた。

家族にはまだ話して居なかったが、恐らくあと数ヶ月だと言った。



そして最後に放った少年の言葉に、長が初めて驚愕の表情を見せた。











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