第41話 出逢いと約束

少年が生まれる前の、村の小さな出来事だった。



村で生まれて、村で育った1人の若者は

とても真面目で頭も良く、皆に慕われていた。


彼には夢があった。

自分の村を活性化させて、やがては沢山の人が行き交う街にしたかった。

先ずは、この村で採れる農作物の品質を更に向上して、より多くの人に味わってもらう。

ある程度の集客が見込めたら、街に交渉して街から村への道の拡大や

建築物の援助、そして更にその先の夢を無数に描いていた。


若者はそれ程までに村が好きだったし、村人が大好きだった。


村人達は、そんな彼の眼差しがとても美しく眩しかった。

この村の為に一生懸命に働く様は、誰もが感動し、幸せを覚えていた。


若者が独身で居たので村人達は多々、彼に縁談の話を持ち掛けた。

そろそろ身を固めるのも良いと、皆全員一致で意見が固まっていた。




若者は気立も良く、凛々しい顔立ちだった事もあって老若男女に好かれていたし

彼を嫌う者は皆無だった。

縁談の話になると、当時の村の女性たちは挙って名乗りを挙げた。




しかし、若者は縁談には興味が無かった。

自分のやりたい事が確立していたし、何よりも大きな夢があった。

過去に恋愛経験が有ったかは定かでは無いが、今は夢に向かう時間だった。




そんなある日だった。



村から少し離れた山の麓に、柔らかく湿度も良い土地が有り、若者は試作の農作物の

生産をしてた。

彼がふと、山の方を見ると一人の若い女性が立っていた。



この村の者では無い事

そして、過去に聞いていた経験から

人では無い事も察していた。



頭の良い若者は全てを見通した上で敢えて無視した



そして翌る日も翌る日も

雨の日も雪の日も

その女性は少し離れた場所から若者を見つめていた。



ある日、若者から放った言葉があった。



「早く山に返りなさい」



そう言いながら、若者は初めて女性に近づいた。

するとそこには、想像を絶する完璧な迄の美しい女性が立っていた。


あまりの美しさに若者は謝った。

自分が失礼だったと反省した。


こんな所に毎回来ては、綺麗な着物も美しい身体も汚れてしまうと

慌てて返そうとする刹那、

女性はその美しい着物を軽く幕い、彼の農作業を手伝い出した。




若者が呆然としていると、彼女は初めて言葉を発した。

それは、この作物生産への的確なアドバイスだった。



若者は恋に堕ちたと自負した。

しかし、自分には夢があったし彼女の正体にも気付いていた。


だから

だからこそ、この場所で色々と話が出来たら良いと思った。


美しい女性は土の付いた汚れた着物を何とも思わず

笑みを浮かべながらその日は帰って行った。


そしてまた、女性は美しい別の着物を纏い若者の前に現れては農作業を手伝った。


若者は、美しい容姿に見惚れながらも女性のアドバイスをしっかり受け止めながら

農作物を育てた。



やがて、収穫の時期が来た。

その日も彼女は若者と作業をした。


採れた野菜は、今までに無い完成を納めていると自負した。


若者は女性にお礼を言うと同時に、婚姻を申し込んだ。

ずっと決めていた事だった。


女性の正体を知り、村の為に生きる彼が全てを受け止め覚悟を決めた刹那だった。



女性はこれまでに無い、美しい笑顔を若者に見せた。

そして若者に寄り添いお礼を言った。



そして放った



「貴方はこの地を担う人。私はずっと陰ながら見守ります。」






少し時が経って、若者は収穫が終わったその山の麓に行った。

女性に逢いたいと思っていた。



彼女は居なかった



暫く時が経ち、若者がふと山の方を見ると

遠くから歩いて来る一人の女性の姿が目に映った。

若者は直様、彼女だと分かり駆け足で詰め寄った。


女性は今までで最高に美しかった。

手には鮮やかな色の蛇の目を持っていた。

晴れた日の日中だったが、若者は畳んだ蛇の目が濡れている事を悟った。



彼はこれが最期だと自負していた。



女性の手を握り、色々な話をした。


今迄

これからの未来


女性はずっと笑顔で聞いていた。



そして女性は別れ際に若者の耳元で、静かに言葉を発した。



若者は驚いたが

それ以上に、彼女と別れる事が辛く泣いた。



女性の前で泣く事は皆無だった若者は、恥ずかしさと申し訳無さからか

或いは、彼女の温もりからか



刹那の睡眠に陥った。



慌てて目が覚めると、彼女の姿は無かった。

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