第40話 告白(前編)
年が明けてから数日が経った。
普段睡魔に襲われる少年も、あまり眠れていなかった。
その日少年は昼下がりに一人で家を出た。
村長の家に向かった。
歩く姿は落ち着きもあったが、少年は少し震えていた。
下半身にはまるで力が入らなかった。
年明けの真冬
暖かい日中の村の景色が、何時もとは全くの別世界に居る様だった。
そんな中でも、昨年殆ど雨が降らず冬を迎え乾燥した木々や地面の異変には
気が付いていた。
村長の家は実家と神社とは離れた場所にあった。
行くのは初めてであったが、母から大方聞いていたので大体は察しが付いていた。
贅沢までとは言わないが、充分に広い庭と建物が見えて来た。
村長は一人、自宅前の畑で農作業をしていた。
母より歳上だとは分かっていたが、その身のこなしはとても若いと思った。
何時もの村長を見ると少年は、緊張が少し解れた気がした。
農作業をしていた村長は、直ぐに少年に気付き、笑顔で出迎えてくれた。
少年もお辞儀をして近付いた。
村長は直ぐに少年を家の中に入れてもてなそうとしたが、
日当たりも良く、とても良いロケーションの庭だったので
少年はここで大丈夫ですと言った。
二人は庭とその奥の美しい山が見える、家の縁側に並んで腰を下ろした。
腰を下ろす頃に少年は、不思議と先程までの震えが収まっていた。
長は終始笑顔だった。
神社の復旧工事の事を再び誉めてくれた。
少年は、話をいつ切り出すかを考えていた。
長は大方、自分の気持ちを察していると自負していたが
全く態度や言葉に出さないので、それが躊躇を覚えさせていた。
もしかしたら長は、何も知らないのかもしれない
そんな逆の安心感も少年は抱いていた。
少年は言葉が詰まっていた。
何を話せば良いか分からなくなっていた。
それは街で老人と出逢った時否、先読みが出来ない自分自身の切羽詰まっている状況を
自負していた。
そうしている間に長は
優しく
簡素化して
少年に放った
「さて、困った。」
少年は直様、長の前に跪いた。
やはり長は全てを知っていた事を理解し、先を見ている事にも驚いたし
今日自分が来る事も悟っていた。
全てはお見通しだった事に、感服と共に躊躇していた自分を恥じていた。
長はやはり笑顔だった。
そして、少年を立たせて手を引いた。
少年は長の手に連れられて、家の脇に向かった。
そこに何が有るかの前に、少年は刹那で察した。
長の家の横には、小さな祠があった。
そして、そこに何が有るかは匂いで悟った。
少年は長の手を振り解き、脚を止めた。
長の顔をずっと見つめていた。
長はゆっくり少年の方を向いた。
全てを見通して、全てを受け止める眼差しだと思った。
少年には長の家に来てから、少し違和感があった。
長には家族が居なかった。
本来なら、正月故に子供夫婦や孫が居て賑わっている筈の光景を想像していたが
長はこの家に、たった一人だった。
長以外に人の匂いがしないこの家に、ずっと一人だった事を悟っていた。
少年は祠の匂いを感じると同時に、ある程度の事を察していた。
まさかこんな事があるのかと思う気持ちや
やはりこの村故の事なのか
しかし少年には考えても分からない事だらけだった。
嬉しさと安心と希望と夢と
そして若干の絶望と苦悩を抱きながら
長と再び祠に向かった。
祠の前に立ち、少年は確信した。
全ての点がまた、繋がった様にも思えたし
全く知らない点が、今までの全ての点を簡単に線に繋げた様な感覚だった。
長と、長の家の脇の小さな祠の前に立ち、少年は深くお辞儀をした。
そして、涙が頬を伝っていた。
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