第37話 煌めく光

美しい金色の狐は、無数の松明の中を駆けていた。

やがて松明の終わりが見えると、狐火の最終地点を察した。



街の繁華街を越えるかの如く、明るい松明の路を出ると

その場所も再び、明るい場所だった。



劫火の列を抜けた先には、一匹の狐が静かに背を向けて座っていた。



星の光に照らされたその身体は、真っ白の様否、銀色の様な美しい毛を身に纏っていた。

美しい狐は、到着した狐を待っていたかの如く、優しく振り返った。

二匹はお互いが待っていたかの様に寄り添い、明るい光に照らせた場所で

穏やかに時間を過ごしていた。




少年は、そんな幸せな夢を見ていた。




ゆっくり夢から覚めると、そこは以前にも来た、無数の星が流れる場所だった。

少年はしっかりと一人で立っていた。



ふと隣を見ると、スイが静かに立っていた。

少年はスイを抱き寄せた。

スイの横顔をみると、彼女はずっと泣いていた事に気付いた。



少年は、スイが己の宿命を知っている事を悟った。



少年はスイを連れて、あの祠の前に立った。

狐の石も同じ様に置かれていた。

二人でお辞儀をした後に、少年はこの石の狐と街で会った事を話した。

そして、この狐に起きた出来事をスイにも話した。



スイは黙って聞いていた。



彼女は近い将来に、自分も目の前の狐の様に、石になる事を案じていた。



否、少年と逢える時間が迫っている事に悲しみと絶望を覚えていた。



微かな可能性を信じ、この山頂に一匹で登り願いを叶え

いつかは来るであろう、自身の命のリミットを常に感じ


「それでも良い」


そう思いながらも



「あと一日」


「あと数時」



そんな気持ちが抑えきれなくなり

彼女は気がつくとこの場所に居た。





この場所で狐から人になった者の定め




人になり、村へ降りて少年と出逢い、恋をして結ばれて行く幸せな道のりの最中も

彼女は必ずしも己に訪れる、抗う事の出来ない定めを知っていた。





今日迄に色々な事を知り、普段では到底に測り得ない体験をした少年にも

未だスイを救う鍵は見付かっていなかった。

だからこそ、今の自分にはスイにかける言葉が気休めにしかならないと自負していた。


流れる星の下で少年は、青年から返して貰った飾り物と狐の面を手に持ち、立っていた。


今までの、今の、そしてこれからの、この山の狐達の想いを一心に受けるも

自分の非力さに怒りを覚えていた。


しかし、決して諦めてはいなかった。

瞳に灯る炎は、頭上の星にも負けない程に煌々としている様に見えた。



少年は灼熱の炎を瞳に灯したまま、顔を空に上げた。

夥しく流れる星と少年の瞳に灯した炎は、まるで何かを交信しているかの様に照らし合わせていた。



暫く時が流れた



山の異変にスイが気付いた。

遠くの方から、今まで聞いた事の無い、耳の奥に響く低い音を感じた。

やがてそれは、地鳴りとなり山の全てを揺らし、今居る場所へと移って来ていた。


スイは立っている事が困難になろうとしていた。

少年に捕まろうと、彼を見た刹那だった。


そこにはまるで流れる星を受け止めて、身体に宿したかの様な人間が立っていた。

その光は、少年の身体全てを金色に映し出していた。



揺れは直ぐに落ち着いた



スイは先程の揺れの恐怖よりも、少年に触る事が怖かった。

しかし、彼女は少年の手に触れた。

その光は、スイの身体にも伝わり、二人を照らし出していた。

夥しく流れる星の山頂は、二人の輝きで星にも負けない明るさを映し出していた。

スイはとても心地良かった。

少年の何時もの優しさと、その温もりの中にいる様で、自然と眼を閉じた。







































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