懲りもしないでさ

ラッキー平山

懲りもしないでさ

 ただ殺されて全然かまわない惨殺死体お前。集団個人のバラバラ・リンチに処され、今日から二日かけて、「東京黄燐ピック」が開催される。


 前座は、老舗バンド「セックス・ビートルズ」による、ところてんインチのアホライブ、棚あげライブの犬死にライフで、いちおうは盛り上がったものの、その後の「五輪駆動・撲殺リンピック」では、日本代表も奇異メダル蛸踊りの果てに、果てしも果てたせんべいみたいに、もろくもたいらげてしまった。

 隣のウクライナ代表が、可哀想だからと胴体メダルを譲ってくれた。喜んでもらってんじゃねえよ豚。


 これらの反省で、翌年、東京こんドームにて射精安全試合が組まれ、揚げ足の取りあい、奪いあい、殺しあいと、なれの果てなダイアリー書き込み不能テンツに対し、シンボリック・メタボ・リリックでご贈答、ご返答が繰り返された。


 以下は林鴎外による開会宣言である。

「呉越同・煮ても焼いても窒息しても溺れ死ぬ衆・愚にのっとり、たとえ首吊っても、意地でも即死してやる。崇拝してやる。自殺的・自死的・自主的・他力本人で、おかずは、ただの豚だ。犯りたいなら抜いてみろ! 威張ってみろ! 叫んでみろ! 絞め殺しても犯してやんの! 空しい、悲しい、テロみたいなテロだねえ」

 絶滅してろ豚。



 そこでテレビを消し、電気も消した。俺の部屋は、とたんにどす黒くなった。暗い闇のような暗闇を蹴飛ばし、ぶん殴っては目潰しだ。椅子に座ったまま、そのようにしてたら、ドアから親父の顔がひょいと覗き、グラサンで叫びだした。

「アナルだけ狙え! ウンコ気にすんな!」



 食いたくないけど団らんだ。部屋から茶の間に降りて夕飯の席につくと、向かいでは糞まみれ父親の恥の中絶塗りばっか、夢塗りばっか。隣のお袋はといえば、まるでコンビナート。そして、その向かいの娘イズは子供である。


「たらふく絶望ドンブリの汁だく一万円は、実は三十五円だ。金払え! 体出せ! 槍だらけ、でんでん無視無視、目玉は無限にやり出せ頭ダセエ!」と叫んで殻にこもる妹は、もはや人間ではなかった。



 俺はもう嫌になって外に飛び出した、靴も履かず。往来はもうない。人間など今さらいない。

 だが神の声が脳内で響いた。


「こんな地球上へ、まずは反対側へ突き抜けろ。足元も空気が真空おろちの、同じ鎌首の餌食った仲じゃないか、そういじけるな、落ち込むな。日本もこうして神様がセックスして作った国じゃないか、気にするな」


 そう言ってヤマトタケルすら神をやめたのに、僕はいまだにこの家で、日本史の宿題するふりして、中間テストの結果バレを子リスのようにおびえて暮らしている、回転椅子にしがみついて。

 だが、あまりのストレスのせいかキレてしまった。


「こんな零点の答案なんてうるせえ、鼻かんで捨ててやる! 古代からの侍は腹切りだが、内臓破裂の介錯は、ただのギロチンだ。自民党幕府も、チョンマゲ垂らして時代の最先端を行くじゃないか。俺もそうしてナニが悪い!」


 日本史は終わった。次は科学か。


「まだ地球も太陽もねえと、着実に確信的にアインシュタインが怒るぞ、時間の逆戻りはよせ。フランケンシュタインが漏らすぞ。なんも分からんで、ただ人を殺すぞ、丸木小屋で焼け死ぬぞ、神のように」


「なのに世界はまだか? 人間の真実は来ないのか? 俺はいないのか? いったいここは、どこすらでないのか?」


 ここでAIを使う。


「大丈夫、問題ない、心配ない。オーライ、オールライ、ネオンライ、very biggest lieは、いないから口にすんな、口だけだ。肉体も戸籍も、ないないないから、口だけで、書くだけで、あとはなにもない、ご自由にどうぞ。


 まるで、まさに、まるっきりダッチポエフのタダほど安い大安売りはない。安請け合いなさすぎて、笑うことも無理やりすら利かずに、怒りばかりがどんどん沈静、沈殿、たまる、溜まる、黙る、怒る、また黙る。歳ばっか食う。足がダメになる。脳が脳とは、もはや明日は、どっちへ行けばいい?


 などと命乞いは、どんな風穴でニコやかに、なんてお前だ。闇の中で、ひっそり息絶えたお前だ。電話してて、忽然と煙になった私だ」


 科学は終わった。



 最期は国語である。教科書に載っている漱石の「こころ」のキャラクター、「先生」の心情を書け、というもの。


「昨日も置いてきぼりの未来も希望も、手を出して出して出して終わる。つかんだと思ったら『またか』

 また手を出して、口も出して、食いついたと勘違いしたのに、味もないから、満たされない。


 これが未来の栄養摂取で、生き方か。クッダラ暗黒死体ねえぜ。おととい死ねよ、俺!」


 これが心情かと思うと泣けてくるが、「こころ」の先生は、このくらいの怨念としつこさくらいは、体内ではぐくんでいそうだ。

 心情はさらに止まらない、暴走列車のように。


「もうやめろ、君。やめて生きるんだ、お前。

 歩けよ、世界! 走れよ、俺!

 つまずけ! そして生き返れ!


 すべて滑って転んで頭打っても、今だけさ。

 痛いか? 泣け!

 今だけさ」




 実は、父はもう半年も仕事をしていない。長らくあきらめられていたが、最近は思い出したのか、俺以外の二人がやたら責めている。俺は関心がなく、どうでもいい。それに家族が全員死んでも、明日は変わらず学校がある。


しっかり鍵を閉めたドアの向こうで、母と妹の断末魔が聞こえる。父はついに裏庭のトマホークを使ったな。



 でも俺は、これを済ませても窓から逃げない。国語の宿題には続きがある。

「今夜、あなたの感じたことを、なんでもいいから詩にしなさい」だと。



 題名「ちょうどよかった」


「飛び込むとき未知の幸福にワクワク。全身で飛び込むときが、いつか来ると、信じて疑わないバカの骨頂だからこそ、生きてんだ、死んでんだ、両方同時なんだ。分かったか、タワケが、フヌケが。ウスノロ災い野郎は失せろ!」


『カズー! カズー! あけろ! 今すぐここ、あけろおお!』


 親父の怒鳴り声と、刃がドアをたたく音、裂く音、刻む音、音、いま、まさに俺の背後で逆巻く音、音。


 それでも詩は続けなくてはならない。


「どんな不幸も勝手に向こうで死んでいく。『知ったこっちゃ超常現象ねえよ!』と嘘だらけ、黴菌だらけ、死体だらけ。あの世が恋しいか。歌うか。踊るか。

 外して外して踏み外して、奈落は一気に高層ビルの最上階から地面へ。死んだか、即死か、飛んでいったか、分からない」



 ドアの裂け目から飛び込んできた父のトマホークは、確かに俺の背と心臓を突き抜けた。だがその前に、俺の魂だけが窓をあけてさっと逃げた。これの手前にある一文が、それ。

 詰めが甘いな、親父。



  xxxxxxx



 かように、いくら殺されても死ななかった俺に、再び変わらぬ日常がやってきた。

「日差しで鼻をかむような、平和な午後です。勃起です。萎えです。底なしです」と鼻歌をうたいながら、俺の恋したあの娘が、窓の向こうの街路を、またやってくるよ。

 おれは、ただちにティッシュ用意。懲りもしないでさ。



 茶の間のテレビでは、また地球滅亡の生中継をやっている。

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懲りもしないでさ ラッキー平山 @yaminokaz

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