第9話 絶対的不利

弾けた雷が消え去った時、放電しきった弥雷と、目を隠していた紅炎と奏だけがそこにいた。


「む?彼奴は?」


目を開けた奏が辺りを見回す。紅炎は放電して疲れ果てた弥雷に駆け寄って肩を貸す。


「弥雷、動けるか?」

「問題ない……ちょっと痺れただけだ。」

「やるぅ。」


『雷轟』は雷の塊をただ撃つだけの技。まだ調整が上手くできず、蓄電した半分の電気を失ってしまう。


不壊の耐久力を加味した上で、割と全力で電撃を放ったのだが、


「いないってことは避けられた?」

「だとしたらどこに行ったんだ。」


姿の見当たらない不壊を探す3人。観客席の人々もザワザワと騒ぎ出し、皆不壊が見つけられない状況になった。


そんな中、奏が1人で呟き出す。


「右左前後ろ、水平方向にいないのなら……」


ひょいと小さな頭を上にあげると、


「やはり……上か!!最強!!」


そう言った瞬間に、奏がその場から退避する。それを見て直感で紅炎と弥雷も退避すると、さっきまでいた場所にコルクが大量に落ちてきた。


それ一つ一つが、銃弾とほぼ同じ速度で。


「クソ……どんだけ速く動いたんだよ!!」


雷を、それも目の前で放たれたものを躱して見えなくなるほど上空に飛び上がるなど、


「並じゃねぇ、やっぱ人類最強!!」

「だろ?ガキ共。」


ガシャンと音を立てて地面に着地する不壊。彼女の周りには大量のコルク銃が、彼女を守るように四方八方へ銃口を向けており、簡単には近づけない。


「銃弾だと死ぬし、コルクくらいが丁度いいだろ?」

「舐めてくれるなよ!!」


絶対的に思える守りに最初に飛び込んだのは奏だ。


念力が銃を無理やりどかし、穴を開ける。


「3発入れれば勝ちと言ったな、さて、何発ここにあるかな!!」


奏の背後から波のように何かが飛び出した。それは先程不壊が上から撃っていたコルク弾だ。


こじ開けられた防御の穴にぶち込めば、3個当たれば勝ちとなる。


不壊が生み出す武器は、彼女の思うがままに動き回る。地中だろうが空中だろうが、彼女の武器は破壊されるまで不壊に従う。


それは有名な話である。だから奏は武器を動かしてどう防御するのかを試してみた。


ところが不壊は武器を動かすことなく、流れてくるコルクの波に全く動かなかった。


奏が疑問に思ったまま、コルクの波が不壊を飲み込む。


そして大量のコルクが通過したあと、武器が残って不壊だけ消えていた。


「む?」


この場にいる3人が首を傾げていると、


「ふー。」

「むわぁ!?」


奏の隣にいつの間にか移動していた不壊が、背の低い奏の小さな耳に息をふきかけて遊んでいた。


「き、貴様!!いつの間に……というかなんだその瞬間移動は!?」

「あー、あれ?知らないのか?」


不壊は木刀を作り出し、二刀流で奏を見据えながら、


「私、飛び道具……てか直接攻撃以外当たらないって、知らない?」

「……んん?」

「……おい、あれマ?」


硬直する奏と、信じきれない弥雷が紅炎に訊くと、紅炎は思い出したかのように頷いた。


全く知らなかった弥雷が天を仰いだ。


「いやー使うと強すぎるからさ、使ってなかったんだよ、最初。でもお前ら強いし、いっかなって。」


じりじりと近づいてくる不壊から、奏が後退りで逃げ始めた。


「我、絶対的不利で草!!」

「あいつ相性うんこやん!!」


ここに来て、奏の『念力で物を飛ばす』という戦法が全く通じないことが分かった。

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雷鬼と炎龍 快魅琥珀 @yamitani

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