第7話 雷轟
不壊を浮かび上がらせた奏の能力は、物体を浮かばせたり、飛ばしたり、落としたり、壊したり、潰したりできる万能なもので、本人は『念力』と呼称している。
だいたい目に見える範囲のものは動かせるし、自分で練習していたので、重たいものもある程度なら動かせる。
それでもやはり数と重量には限界があって、平らな地面を突然割ったり、固い物質を思い通りに変形させたりはできない。
特に操りづらいのが、生き物だ。
生きているものは物体と違い、様々な組織の集合体であり、それぞれの抵抗力が段違いなのだ。
また生き物の中にも動かしづらさの違いがある。
魚などの知能の低い生き物は、ある現象に対して片手で考えられるほどの考えしか浮かばない。
対して人間のような複雑な脳を持ち、かつ考えることに長けた生き物はとても容量が大きい。
故に、
「はぁ、はぁ、はぁ……」
奏は鼻血を出しながら、空で楽しそうに寛いでいる不壊を睨みつけていた。
「さ、さっさと降参しないかー!!人類最強ー!!」
「やーだよー!!お前が疲れるまでくつろいでやるっつーのー!!」
「く……」
脳疲労が加速し、だんだんと視界がぼんやりとし始める。
存在としての格が高い不壊を浮かばせるだけでここまで消耗するとは奏は思ってなかった。せめて地面にたたきつけられる程度はできるかと思っていたが、自由落下の方が多分速い。
「て……おい貴様ら……」
疲弊しながら振り返る奏。そこには全く加勢せずに談笑している弥雷と紅炎がいる。
「何してるんだ!?加勢せぇい!!」
「ごめん今ガチャ引いてて。あと30連で天井なんよ。」
「でも課金すべきかどうか迷う性能でな。」
「スマホ置いてこい!!なんで置いてきてないんだ!!」
隠れて持ち込んだスマホを堂々と使用する紅炎。その画面にはそらから紫色の光が落ちてくるガチャ演出が流れている。
が、紫は星4らしく、めぼしい当たりしかないようだった。
「なんで武器もでるかなー。キャラだけにしろよなー。」
「素材にしろ素材に。デイリー消化した?」
「やったって1連分も素材落ちねぇもん。」
「コツコツやるんだよそういうのは。」
「貴様らァ!!いい加減こっちに目を向けろぉ!!」
全く関心なさそうにしている2人に怒号を飛ばす。彼らはようやくスマホをしまい、戦闘に意識を向ける。
「あれ?なんで浮いてんのあの人?」
「さぁ?」
「そんな前から見てなかったのか?」
空中で寝転がったままの不壊。ようやく3人一緒に戦闘が行われる様子なので、重い腰をどっこいしょと動かした。
そして持っていた刀の切っ先を3人に向け、
「もういいか?そろそろ、本気でやりたくなってきた。」
そう告げてやったのだが、
「だってなんか自分が行けば勝てるとか言ってなかった?」
「我がいれば勝ちがかたいだけで、貴様らの助力なし勝てるものか!!」
「でも無くても行ける的なニュアンスだったよな?」
「あれは……ちょっと舐めてたから……」
「……全く、今年は面白いやつばっか入ってきたな。」
と、不壊が聞く耳すら持たない3人にため息をついた。ため息を着くことは滅多にない、というかため息をつかれる側の不壊にしては珍しい。
あれだけのやる気は一体どこに行ったのやら。
そう思っていると、だんだんと不壊の高度が落ちてきた。
「むぅ~~!!」
「辛いんなら離してから話せよ。」
未だ空中に不壊を留めようとする奏の苦悶の声に弥雷がそうアドバイスしたが、「離したら攻撃されるだろうが!!」という返しに何も返せなかった。
「まぁ、生意気な分、強者と戦場を教えるのはやりがいがあるってもんだな。」
ついに空中での拘束が解けた。
そろそろ動くか、そう不壊が地面につま先をつけた瞬間、
「は」
視界に映っていた弥雷が突然、目の前に迫っていた。
腰の鞘にしまっていた刀、まぁこれはただの鉄の棒なので切れることはないが、鉄でできてるが故に凄まじい電気を纏ったそれが振り下ろされていた。
不壊は咄嗟にゴムが貼り付けられた盾を弥雷との間に作り出し、即座にその場から撤退して攻撃をやり過ごす。
地面に盾が落ち、電気を通さない絶縁体を見下ろして弥雷が舌打ちをした。
苛立ちがそう現れてしまったかと不壊が認識するのと同時に、視界の端から迫りくるう炎が見えた。
今度は耐熱性の高い金属の盾を生成して防ぎ、発射場所を見据える。遠くには不壊に対して手のひらをかざしている紅炎が歯を食いしばっていた。
不壊は少し見誤っていたようだ。
ただ実力過信な生意気小僧有象無象だと思っていたが、
「これじゃあランク2……いや3から始めたっていいんじゃねぇの?」
あの状況から攻撃に転じる速度がこちらを置き去りにするもので、しかも何も言い合わせせずに攻撃を連発できるように動いている。
「でも2発で終わりかガキ共!!」
「そう思うか?」
盾を消し去りそのまま刀を作る。それに合わせるように弥雷が突撃し、紅炎が全身に炎を纏いながら接近してくる。
刀は鉄ではなくゴム製。武器から電気を流されるのを塞ぐため。それから紅炎の炎を纏った攻撃を防ぎために金属製の小手を装着し、放たれる拳撃を真っ向から受け止める。
「クソ……速ぇ!!」
紅炎が得意とする体術は全身を使うタイプ。足も手も首も腰も全部動かして、攻撃を絶え間なく与え続ける。
弥雷が用いる剣術は完全に独学であるが、彼の雷の速度と強い電撃によって不完全さを消し去っている。その連撃の速度たるや、正に光と戦うようなもの。
それをそれぞれに近い方の片腕だけで対処する不壊は、もっと化け物だと言える。
「ちィ……」
舌打ちしてから距離をとる弥雷。動きの速い彼は対応はできても追えはしないので、不壊は紅炎に集中する。
「オラオラァ!!」
「いいな!!もっと来い炎上系!!」
近づくだけで火傷しそうな熱気を纏う紅炎に不壊は容赦なく四肢を突っ込む。
炎が舞うせいで上手く見えない紅炎の激しい動きにも完璧に対応し、一切の攻撃を許さない。
3発入れれば勝ち。ここに来て無理難題であることが分かり始めた。
だがこれは3人で3発だ。紅炎だけがプレイヤーじゃない。
「紅炎!!」
「おうとも!!」
戦場を駆け回り、不壊の背後をとる弥雷。発せられた声に紅炎が更に炎を吹き出しながら不壊をその場に留めた。
不壊が振り返る。そこには蹴りを放つ最中の弥雷が見えた。その足に凄まじいほどの電気が溜め込まれ、今まさに放出されそうなのも。
「させるか。」
すぐさま体を捻り、長い足で弥雷の肩を蹴飛ばそうとする。が、その蹴りは放つ段階に達する前に妨害された。
「我はこういう時に力を発揮するのだ!!」
近づきたくないけど思い通りに動かしたい。そんな時は奏の『念力』がとても便利。
蹴りを放つ不壊の足を、『念力』で押さえ込んだ。
「やば。」
それを理解する前に、弥雷の足が振るわれる。
刹那、空気との摩擦で電力をできるだけ溜め込んだ足という蓄電器から全電力が放出される。
「『壱式・雷轟』」
足が一番速くなったところで、コロシアム全体が光に覆われた。
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