第4話 人類最強

『生討』の建物の中に入ると、それぞれ割り振られた教室に案内され、席に着く。


『生討』とは言っても、いきなり戦いを始める訳ではなく、3年ほど育成所で育成することになる。


実践に出されるまではここで教育と実技練習を繰り返し、その後それぞれの戦闘部門に分けて全国の支部に配属されることになる。


紅炎と弥雷が通学するのは東京にある東京校。1番『生討』の本部に近く、1番大きな施設である。


なので当然生徒数が他の施設よりも多く、学力によって割り振られる教室も多い。


教室は1から6まであり、1から順に成績順に配置されている。教室ごとに担任の教師もいて、彼らは普通の高校教師の中から抜擢された者たちだ。


「はいこんにちは!!ここの担任として君達をこれから3年間世話をする、神村と申します!!」


弥雷のクラスに入ってきた長身のメガネをかけた教師が笑顔でそう言った。


一般的な好青年に見えるその教師は、じっと黙ってリアクションをしない生徒達にお構い無しに話を続ける。


「えっと、みんな今日から新しい仲間と一緒に死線をくぐり抜けるわけだけど、結構頑張らないとやばいからね。3年後だいたい3分の1くらいになってるから、生徒数。」


その発言の直後に、教室内がザワついた。


そりゃそうかと弥雷は周りを見回してみると、黙っているのは弥雷と隣の女子だけだった。


「なんでそんなに死ぬんスかー?」

「死ぬくらい過酷な練習があるからだよ。」

「死ぬほど辛いことをしないといけないの?」

「だって君ら死ぬか生きるかの世界に行かなきゃ行けないんだよ?人間想定の試練乗り越えられなかったら、戦場では死ぬよね?当たり前。」


道理だと、弥雷は思った。


戦場で死ぬなら試練で死ぬ。死ぬくらいの練習をしないと、それ以上の戦いでは活躍できない、ということだ。


今までそんな過酷なことを経験せずに生きてきた高校生らを3年で育てるとなると、それくらいの辛さは乗り越えなければならない。


それかあるいは、


「戦場での足でまといのふるい落とし、か。」


弥雷の隣の女子が静かにそう呟いた。何故か机で俯きながら顔を抑えていたが、気にせずに弥雷が小さく頷くと、その様子を見ていた神村が「そう!!」と指さしてきた。


「簡単に言えばそういうこと。君達さ、親が頑張って育てようって命削って稼いだお金無駄にしてここに来た危険分子だからさ、ここで何も出来なくても一般人にとっては危険だし、ここ追い出されても君たちに残るの、中卒っていう肩書きだけだよ。だったら死んだ方がマシでしょ?むしろ幸福なの!!よかったね!!」


とても面白そうに笑う神村。クラスの中の異能に自信の無い人達は戦慄していた。弥雷はとうにその覚悟ができていたので、特に驚きはしなかった。


自殺より殺される方がマシ、というのは、道理ではある。


「一般人にとってのヒーローになるか、『生討』にとっての敵になるか、決めるのは君たち。まぁ可哀想だとは思うよ?生まれてきただけだしね君達。まぁでも、運命ってやつだからさ。受け入れて行くしかないから。うん。頑張ろ?」


神村がそう笑いながら首を傾けたところで、この時間は終わった。


~~~~~~~~~~~~~~~~


それぞれクラスの担任とのホームルームなるものを終え、大ホールに移動した。


横に長く並べられた椅子に並んで座りしばらく待っていると照明が消され、真ん中のステージに光が集まる。


そこに立っている細身の男。その男が、この育成所の管理人だ。校長のようなものだと思ってくれればいい。


目元にあるクマを擦り、眠そうな眼を開けて、その男はマイク越しに語り始めた。


「みなさん、おはようございます。東京異能育成所管理人の、坂井敦彦さかいあつひこと申します。私を見かけたら、あいさつをするように。喜びます。」


一時も微笑みもせず、坂井は手短な挨拶を済ませた。その後簡単な自己紹介があって、彼も一応異能使いなのだが、その異能が『他人よりも少し長く起きていられる』という社畜異能らしいということを伝えられた。


他人より活動時間が多いからこそ、ここの管理人を任されてしまって残念だという話もあったが、長すぎてほとんどが寝ていたので誰も覚えてはいなかった。


ちなみに弥雷はちゃんと聞いていたので覚えている。


「えー、私の話はこれくらいに。それと、普段ならこれで終わりなのですが、今年は特別に『生討』から来てくださった……というより、勝手に来たやつがいましてね……」


やつれ顔で右手で右を指し示す坂井。彼が「どうぞ。」と言うと、ドカドカと大きな足音を立てながら一人の女性が歩み出てきた。


ポニーテールで腰に2本の刀を備えており、『生討』が着る黒い防護服を来た女性を見て、何人かの生徒がざわつき始めた。


その様子を横目に、態度の大きそうなその女性は自慢げにしている。弥雷は誰かわからなかったので首を傾げていると、隣に座っている、さっき小さく呟いていた女子生徒が、


「あれが、人類最強か……」


なんて呟いていたのでようやく分かった。たった今坂井からマイクを奪い取り、大きく息を吸っている女性、彼女こそが、


「どーも!!『生討』戦闘部門第1部隊隊長であり!!人類最強と名高い私!!王都不壊おうとふえだ!!」


世界で最も強いとされる、『生討』のルーキーだ。

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