第14話 巌山の過去

 式が終わった後は、余った仕出しをお弁当箱に詰めて各自の離れに帰っていった。ゼウス大神の帰り際、ちょっとついてこいと命じられたので、アランは恐怖に少し小便ちびってたが、逆らうことなど出来ないので付いていった。


 「怖がらなくてもいい。運命のイタズラってやつで、お前さん他の選択肢なんて与えられてないだろ。おかんが全部レール引いてそこの上をただ転がされていた、進むか止まるかしか選択肢はなく、止まっててもすぐ背中押されて前に進まされた。そうだろう?」


ハイその通りです。認めていただきまして光栄です。ただ、あなた様のお母様とはつゆ知らず素敵な女性だなと横恋慕したことは事実です。それでも罰は勘弁してください。


「おまえさんが放り出されて、出会った無人島のダンジョン掘られてる巌山な、実は昔オレもあそこに隠れてたんだよ。幼い頃DVオヤジから逃げてたおかんに連れられてな。」


なんと神代の昔からのダンジョンだったそうだ。道理で聖遺物アーティファクトがよく出土するわけだ!


「オレのガキの頃のオモチャとか、黒歴史小説書いたノートとか残ってると思うが、キッツい呪いを掛けてあるからな、見るな聞くなそして、絶対に触れるなよ。」


触れるなというのは、多分touchではなくmentionの方だなこりゃ。しかし、最高神が掛ける呪いって相当ヤバそうだ。掘り当てなくて本当によかった。そんなことを思っていたら、ゼウスがいやいやいやいや、と手を横に振る。


「オレの掛けた呪いったって死ぬかもしれないが、はじめから存在しなかったことにされたりはしねえよ。そんな事ができるのはおかんとおかんのおかん、つまりオレから見た祖母の二人だけだ。」


 なんと、レイアにも母親がいるらしい。いや、そもそも目の前のゼウスにも親が居たって知ったのは前夜のことで、神はみんな無から自力で顕現するものだとばかり思ってた。


 「厳密には代々の神のなかで、無から自力で顕現したのは祖母だけだな。それ故彼女は、存在それ自身Existence itselfという通り名を持ってる。まだ元気な筈だ。何故なら我々が今ここに存在してるだろう。彼女の安否はいつでもどこでも、そうやって感じる事が出来る。


難しいな。人の姿で会えないのかね。レイアみたいに。


「ある意味、俺もお前も存在するものはすべて、祖母の顕現とも言える。本来ならおかんも万物の状態だから、そういう超越的な存在のはずなんだが、伸び代のある子といたずらが大好きで、時々ちょっかい出すんだな。前はオレたち兄弟姉妹に、そして今回はお前さんみたいに。だから、オレは継父というよりも弟のように思ってる。」


なるほど。よくある存在で見慣れたモノだったようだ。こっちが一方的に恐れていたのが所詮人間の狭い了見で、神にとってこっちは気にするに値しない見慣れた存在だったってことか。良かった。


「てなわけで、困ったことがあったら助けてやるから、なんでも相談してくれていいぞ。それこそオカンひとりを生命線にしてたら危なっかしくて仕方ないよな。コネはひとつ離れてしまったときに別のを掴めるように常に複数持つことが自分の尊厳を守るうえで何より大事だ。」


 アランはこれ以上無く心強い後ろ盾をゲットした。とはいえ相手が絶対的すぎて対等な関係ではなく、下手に借り作ると死んでもあの世でも追いかけ回されて逃げられない債務を負うような気がする。ぜってー頼らねえようにしたい。いや、こういうコネは使わなくても有るということが大事なんだよ。


ーーー


 レイア神殿の敷地内に、「子どもたち」の離れがあり、その中でもひと回り大きめの建物がゼウス大神の離れだ。いや、これ単独でも神殿と呼んで全く差し支えがない、集会所までついてる立派な建物だ。

 アランは連れられて中にお邪魔する。すると、さっき各自の離れに帰ったはずの兄弟神が勢揃いしてた。


「よ、アラン。これから長い付き合いになるから、うちがどういう家族なのかは知っといたほうが良いからな。今夜は語り明かそうぜ。」とポセイドン大神がおっしゃる。


「おいおい慣れてもらうとして、おかんの婿に取られた以上はクロノス被害者の会代表になるのだから、俺たちの過去の概要くらいは知っといてもらったほうがいいからな。」ハーデス大神からもお言葉をいただく。


「被害者の会代表というよりは、クロノス清算事業団理事長かしらね。かつてクロノスが握ってた権限は分割して私達で管理してるから。」デメテル大神まで何故か実の父に関するこの件に関してだけは兄弟と意気投合してる。兄弟仲は最悪って噂だったんだけど、やはり時代は変われど父親というのはそういう扱いなのだな〜。なんか可哀想。



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