第16話 粗暴な狂信者

 聞くところによると、レイアの前夫は凶暴な狂信者ファナティクスだったようだ。何を狂信したのか?物事にはすべてはじまりと終わりがなくてはならないという信念である。


 はじまりの女神レイアが万物の開始状態を産み出すので、それとバランスを取るために自らは終了状態を万物に与えなくてはならないという自分自身が勝手に想定した信念に囚われていたのだそうだ。


 しかしその信念は、流石はレイアとタメ張れただけあってそんなにハズレていたわけでもなく、彼が支配して万物に終わりを告げていた時代は黄金時代とも呼ばれている。


 時代は黄金時代かもしれないが、そこに生きる存在は皆クロノスを恐れていた。黄金時代を築くための有限の存続しか許されない。いつ終わりを告げられてもそれに従うしかない恐怖は段々と人々の心に闇を落とす。


 時代を作るために自分たちが生きているのではなくて、自分たちを生かすために時代があるべきなのだ。それが黄金時代でなくても構わないではないかと言うのが、黄金時代を生き、黄金時代を築き、黄金時代の存続のために消えて行った者たちの叫びであった。レイアも終わらすために始めてるのではないと苛ついていた。


 そしてある日レイアは決意した。クロノスに終わりを指名されたゼウスを引き渡さずに、ピッカピカの容器にパチンコ玉びっしり詰めて引き渡し、その隙にゼウスを連れて、あの賢い地敷大比売神存在それ自身の女神の下に庇護を願って逃げ出したのであった。

 確かに、彼女は「女手で子供達育てあげて独立させてる」とは言っていたが「女手で子供達育てあげて独立させてる」とは言ってなかった。なんか変な言い回しだよなと思ったが、そのときはレイアに首ったけでそんな些事気にしてる余裕はなかった。背景に祖母の手助けありきで自分だけの力ではないことを言いたかったのか。


 それ以来、地母神は三代にわたりレジスタンスの象徴となった。三代の地母神とは 初代が存在それ自身、二代目が万物の状態、三代目がものごとの道理即ちお天道様である。


 本来は愚か者に握られた社会を捨てても万物の提供者パンドラ(Pan-Donor)たる地母神からの恩恵は変わることなく受けられる程度の意味だったが、社会が悪意あるものや愚か者に握られたとき、女神が顕現し別の生き方を教えてくれるという信仰もうまれた。


―――


 ゼウスの部屋に連れ込まれて、アランはレイアに関する過去の話を聞いた。スケールが大きすぎて、一人の女性の事を語ってるとは思えない。

 それもついこの間まで淫靡な遊びを誘ってきてアランも調子こいていちゃいちゃしてた可愛いエッチなお姉さんの過去がまるで神話だ。いや女神だからまるでじゃなくて本当に神話なのだが。


 とりあえず、ゼウスがレイアに並々ならぬ恩を感じていると同時に実の父親を恐ろしく憎んでいるというのはよくわかった。あの可愛いお姉さんがねぇ?


 彼女の人となりの紹介でこんな壮大な話をされても困るよね。


 軽くまとめると、

・レイアの前夫は狂信者DVオヤジだった。

・狂信者DVオヤジは外ヅラは良かった。

・中は地獄で、全てが狂信者DVオヤジの外ヅラのために利用されていた。

・ある時レイアが思いついて、ゼウスのかわりにぴっかぴかの容器にパチンコ玉詰めた謎物体を渡した。

・助けられたのがゼウスだったのはレイアの思い付きとタイミングが一致しただけ。

・地母神はレジスタンスの証。

・レイアはオワコンの男神クロノスの対となるはじまりの女神だった。

・レイアの子供たちは紅一点のデメテル大神を巡るドロドロの三角関係


 もっとシンプルにまとめると、「レイアはとてもえらい」ということだな。ただのえっちなお姉さんじゃなくて、えらいえっちな女神だ(「えらい」は女神に掛かる。「えっち」に掛かってるのではない)ということか。

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